「俺だけ見てて」
ぎゅっと抱きしめられて、耳元で浩人さんが呟いた。
言われなくても、そのつもり。
浩人さん以外は見えてない。
たぶん、浩人さんが思ってるよりも、浩人さんのことが好き。
他の誰かと付き合うなんて考えられない。
それくらい好き。
けど、私は態度に出てないのかも。
言葉にしないと伝わらないのかもしれない。
とはいえ、言葉にするのはちょっと恥ずかしい。
少し考えてから、浩人さんの背中に腕を回して服をつかむ。
自分から抱きつくのは初めてかもしれない。
ふっと浩人さんが笑った気配がして、抱きしめる力が強くなった。
直後、力がゆるんで少し距離が空く。
近い距離で目線が絡む。
顔が近付く。
この先のことは、わかる。
何が起こるか分からないほど子どもじゃない。
その目をじっと見つめてから、身を委ねるように目を閉じかけた…
コンコン
「っ!」
突然のノックに、思わず浩人さんの肩を押した。
私の手の長さの分だけ空いた距離に、浩人さんは困ったような笑顔を浮かべる。
「続きはまた、だね」
「……」
続きって…。
顔に熱が一気に集まった。
意味が分かるから、いたたまれない。
「顔、真っ赤」
「だ…誰のせいですかっ」
笑った浩人さんが恨めしい。
ノックした人に答えなきゃいけないのに、赤い顔じゃ人前に出れない。
「俺が出る?」
「いいです。自分で行きます」
浩人さんが答えたら、それはそれで面倒なことになりそう。
自分の手の甲で頬の火照りを癒しながら扉の方に向かった。
浩人さんは後ろで小さく笑っていた。

