「分かってますよね…」
「分かんないよ」
絶対に分かってるよ…。
「ね、教えて」
「…分かんないなら、いいです」
「ん?」
顔を背けると、浩人さんは立ち上がって顔を覗き込んでくる。
「真琴、こっちむいて」
やさしい声が、耳元で囁く。
「……」
「真琴」
背けていた顔を引き寄せられる。
逃げようとすれば、追いかけられる。
やさしく、穏やかに、けど着実に、浩人さんに捕らわれる。
捕らわれて、そこから動けなくなることを、私は恐れている。
それなのに、だ。
それを知ってか知らずか、私が離れようとすると追い詰めてくる。
だからダメになりそう。
溺れてしまいたくないのに。
ダメになりたくないのに。
「浩人さんは、甘いです…」
「…甘やかされたくないの?」
「だって、分からなくなる。どこまで頼っていいのか、判断力が鈍るんです」
「いいよ、それで」
「…よくありません」
「いいんだよ。分からないまま、何も考えずに甘えてくれればいい」
「……」
「それくらい、俺に夢中になって」
浩人さんの瞳が、私を捕らえる。
「俺のことしか考えないで」
「そんなこと…」
そんなこと、できたらいいのに。
何も考えずに、浩人さんだけを見ていられればいいのに。
そうはいかないという現実は分かってる。
だから、思うだけにして口には出さない。
「そんなこと出来ませんよ」
「俺のことだけ好きでいて」
「それはもちろん」
答えれば、浩人さんは優しく笑う。

