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「もう落ち着いたみたいだね」
次の日、圭ちゃんは登校したばかりの私の顔を見てそう笑った。
そして部活の時まで同じ言葉を繰り返す。
「何があったのか言ってみなさーい」
それはそれは楽しそうに、部活の時までしつこく追求された。
「もー、言わないってば」
「言えないようなことでも起こったのかなー?」
ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべて見てくる圭ちゃんを睨んでみる。
(絶対に言うものか)
みんなが着替えてる部室で言うのはできないし、圭ちゃんに言うのも恥ずかしい。
「そんなんじゃないって」
「じゃあなんで言えないのかなー?」
着替えを終えて部室を出ながら、圭ちゃんはなおも繰り返す。
「もう、この話は終わり」
「えー、相談にのったのに…」
「それは感謝してる」
「じゃあ教えてよ」
「それとこれとは別…」
「東堂」
不意に後ろから呼ばれて、振り返る。
「宇月くん、何?」
宇月 諒太(うづき りょうた)くんが振り返った先にいて、私は首をひねる。
彼は2年になってから同じクラスにもなった同級生で、同じ剣道部員だから話しかけられる機会も話しかける機会も多い人だ。
「私、用事あるから先に帰るね」
「うん、またね」
先に校門を出ていく圭ちゃんを見送り、宇月くんに視線を戻す。
「なんか、ごめん。2人で帰るつもりだったよな」
「いいよ。いつでも一緒に帰れるから」
「…羨ましいな、それ」
「え…」
宇月くんはクラスメイトで、同じ部活で、仲のいい男子。
それだけ。
「俺、東堂のことが好きなんだ」
「……」
「俺と付き合ってほしい」
「…ごめん。付き合ってる人が、いるの」
「あ…そう、なんだ。ごめん、俺知らなくて…」
「圭ちゃんしか知らないから…」
「そっか…。聞いてくれて、ありがと」
“明日からも同級生としてよろしく”と爽やかに笑って、宇月くんは手を振っていってしまった。