ノックに応えて部屋のドアを開けた浩人さんは、私を見てまばたきを数回繰り返した。
「どうかなさいましたか?」
まだ執事服のまま、対応も執事のそれ。
でも、どこか嬉しそうに笑った表情は執事ではない。
「あの…私が引っ越してきた時に荷物の整理をしたのはどなたですか?」
「私ですが…何か探し物ですか?」
「はい。パスポートってどこにありますか?」
「パスポート、ですか?」
浩人さんは首をひねる。
「なぜパスポートをお探しに?」
「兄のところに行きたいんです」
浩人さんの顔が、難しい表情になっていく。
「なぜ急に?」
「なんか、急に、会いたいな…と思いまして」
苦しい言い訳、かもしれない。
でも、お兄ちゃんに会いたいのも事実だと自分に言い聞かせる。
「いつ行くのですか?」
「今週末…にでも行こうかと」
「分かりました。今はタイですよね?」
「はい」
「では、向こうでの案内はお任せください」
「……え」
待って。
「1人で、行きます」
「なぜですか」
「…浩人さんは、仕事があります」
「私の仕事は真琴様の執事です」
「……」
言葉が出てこなくて、浩人さんを見つめてしまう。
浩人さんは真っ直ぐに私の目を見つめ返して、すべて見透かされそうな気持ちになる。
「入って」
目を逸らした私の腕を取って、浩人さんは私を部屋に引き入れた。

