「君は?」
明らかに不機嫌そうに、男の人は浩人さんを睨んだ。
服装から執事だと分かっているから、ずいぶんと上からの物言いだ。
「真琴様にお電話です。こちらへ」
浩人さんは男の人の言葉には答えず、私の方を向いた。
その思ってもみなかったその対応に、私は浩人さんの顔を見つめ返す。
「おいっ、お前聞いてるのか⁉︎」
男の人が浩人さんの肩に手を置いた。
それにようやく反応した浩人さんは男の人を振り返り、肩に置かれた手をスッと外させた。
「ビジネスのお話は直接されたほうがよろしいのでは?」
ニッコリと笑顔を浮かべてそんな言葉を残し、浩人さんは私を会場の外へ連れていった。
「何もされませんでしたか?」
「…はい、大丈夫です」
会場の入口から少し離れたところにあるソファに座らされて、浩人さんはその横に膝をついた。
「腕を掴まれていましたが」
「そんなに強い力じゃなかったので大丈夫です」
膝をつくなんて、やめてほしい。
そう言いたいけど、浩人さんの表情がかたくて言い出せない。
こんな不機嫌そうな顔は見たことがなかった。
(私がこういう場所に慣れていないから迷惑をかけてる…)
申し訳なくて目線を逸らす。
「…ありがとうございました。あの、それで電話って誰からですか?」
「あれは嘘ですよ」
楽しそうな笑顔に戻って、浩人さんは声を潜めながら言った。
「嘘?」
「はい。あの方から逃げるための嘘です」
「そうなんですね…ごめんなさい。私、断り方が分からなくて…」
「いいえ、あの方は押しが強すぎます。腕を振り払うくらいは平気ですよ」
何をしてよくて、何をしてはいけないのか。
それが分からないのは私が子どもで知識がないからだ。
浩人さんの隣に立つには、それ以前に迷惑かけないようにするにはもっと教養がほしい。
何も知らない自分が嫌だ。
(もっと勉強しなきゃ)
このままの自分では、浩人さんの恋人なんて相応しくない。

