「ねぇ、君、東堂社長のお孫さんだろ?」
空いたグラスを机に置いたところで、後ろから話しかけられる。
比較的若い商社マンらしい男の人が軽い口調で言いながら、私との距離を詰めてきた。
浩人さんは軽食を取りに行き、今は近くにいない。
「はい、そうですが…」
「君のおじいさんの所と商売をしたいと思ってるんだけど、話を通してくれないかな」
失礼な人だ、と第一に思った。
口調も軽いし、不躾な用件だ。
そもそも、おじい様の会社に関して私が口を出すことなんてできない。
直接おじい様と話して契約を取るのが正しい方法であり礼儀だ。
「申し訳ありません。私にはそのような事は…」
「そう言わずにさ。孫の言葉なら聞いてくれるって」
「いえ、でも…」
こういう場に慣れてないから、断り方が分からない。
どれくらい強く拒否していいのだろうか。
(騒ぎになるのは避けるべきだよね…)
苦笑いを浮かべて困っている風に振る舞うけど、商社マンらしき人は気付かないのか引く気配がない。
(どうしよう…)
「そうだよ、今から行こう」
「えっ…」
手首を掴まれて、引っ張られる。
これは振りほどいてもいいのだろうか。
「あの…」
「失礼致します」
するっと、横から伸びてきた手が私の手を取り去った。
私と商社マンらしき男性の間には浩人さんが入り、その背中に私は隠される。
繋がれたら手にぎゅ、と力が込められて息をつく。
握られた手と反対の手で、浩人さんの服の裾を少し掴んだ。

