Please be absorbed in me



***

「どうしようか?宿題は終わったんだよね」

「…はい、おかげさまで」


“どうしようか?”という問いは、意図的にスルーしてしまった。

私は今の状況にいっぱいいっぱいで、心臓は落ち着つことなく早鐘を打っている。


私の部屋に浩人さんと2人きり。

おじい様は出かけていて屋敷にもいない。
お手伝いさん達はいるけれど、用事もないから私の部屋にはきっと来ない。



お昼を食べて、自分の部屋に戻って、しばらくしたら浩人さんがやって来た。

そして部屋に置かれたソファに並んで座り、私は正面を、浩人さんは私の方を向いている。

手触りのいいクッションを抱くことで、どうにか逃げ出すのを抑え込んでいた。


「どうしようか?」


スルーした言葉をもう一度言われて目線が泳ぐ。

その浩人さんはと言えば、執事服ではなく私服だった。

そして繰り返されたその質問。


「…どうしましょうね」


(“一緒に出かけましょう”と私から言うのを待っている…で合ってるのかな…)


時間が余る春休みの午後。
昨日までは宿題に逃げていたけど、それも終わってしまった。

“宿題があるので”と言い訳を並べたとしても、夕食の後には必ずソファで並んで座ることになるのだろうけれど。


あの日から困っていると言えば、これだった。

話をするのは好きだし、浩人さんと一緒の時間を過ごせるのは嬉しい。


(でも…心臓がドキドキしすぎて痛い)


あまりにも急に縮められた距離や関係の変化に、心が付いていかない。


「真琴はどうしたい?」


そう言って、浩人さんは私の髪に触れる。

シャワーを浴びたとはいえ、おかしなところがないかと緊張するのは仕方ない。


浩人さんはごく自然に私に触れて、おまけに紡がれる言葉はとても甘い。

誘うような声は、執事の時とは違う人じゃないかと思えるほどだ。


「私は…」


浩人さんはやさしい笑みと眼差しで私からの言葉を待つ。

そして楽しそうに私を見ている。