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「どうしようか?宿題は終わったんだよね」
「…はい、おかげさまで」
“どうしようか?”という問いは、意図的にスルーしてしまった。
私は今の状況にいっぱいいっぱいで、心臓は落ち着つことなく早鐘を打っている。
私の部屋に浩人さんと2人きり。
おじい様は出かけていて屋敷にもいない。
お手伝いさん達はいるけれど、用事もないから私の部屋にはきっと来ない。
お昼を食べて、自分の部屋に戻って、しばらくしたら浩人さんがやって来た。
そして部屋に置かれたソファに並んで座り、私は正面を、浩人さんは私の方を向いている。
手触りのいいクッションを抱くことで、どうにか逃げ出すのを抑え込んでいた。
「どうしようか?」
スルーした言葉をもう一度言われて目線が泳ぐ。
その浩人さんはと言えば、執事服ではなく私服だった。
そして繰り返されたその質問。
「…どうしましょうね」
(“一緒に出かけましょう”と私から言うのを待っている…で合ってるのかな…)
時間が余る春休みの午後。
昨日までは宿題に逃げていたけど、それも終わってしまった。
“宿題があるので”と言い訳を並べたとしても、夕食の後には必ずソファで並んで座ることになるのだろうけれど。
あの日から困っていると言えば、これだった。
話をするのは好きだし、浩人さんと一緒の時間を過ごせるのは嬉しい。
(でも…心臓がドキドキしすぎて痛い)
あまりにも急に縮められた距離や関係の変化に、心が付いていかない。
「真琴はどうしたい?」
そう言って、浩人さんは私の髪に触れる。
シャワーを浴びたとはいえ、おかしなところがないかと緊張するのは仕方ない。
浩人さんはごく自然に私に触れて、おまけに紡がれる言葉はとても甘い。
誘うような声は、執事の時とは違う人じゃないかと思えるほどだ。
「私は…」
浩人さんはやさしい笑みと眼差しで私からの言葉を待つ。
そして楽しそうに私を見ている。

