「浩人さんが、好きでいてくれるのは…嬉しいです。でも、だからって、釣り合わない…」
「俺はそう思わないよ」
「違うんです…。私の問題だから、浩人さんがそう思わなくても関係ありません」
分かっていた。
結局は自分に自信がないのが悪い。
隣に並んで、自分が浩人さんに釣り合ってないと気づくのが怖い。
浩人さんが思わなくても、私が釣り合わないと思ってしまって、1人でどんどん落ち込んでいってしまう。
「私が…私に自信がないのが問題なんです」
なぜかまた泣きそうになって、必死にこらえる。
それでも溢れてしまいそうな涙を、私はうつむくことで誤魔化した。
「…俺にはもったいないくらいなのにね」
浩人さんが手を引いて、私は椅子から立ち上がる。
そして、そのまま浩人さんの腕に抱き寄せられて、2人の間の距離がゼロになる。
その胸に顔を埋める形になって、前に微かに感じただけの匂いがいっぱいに広がった。
「難しいこと考えなくていいから、俺のことだけ見て」
浩人さんの声が、触れたところの振動とともに入り込んでくる。
心臓が痛いほど高鳴っているのに、包まれた温もりにどこか安心する。
離れようとは、もう思わなかった。
悩みの前提を「どうでもいい」と言われて、抱え込んでいるのが正しいのかも分からない。
自分の気持ちに嘘をついても、胸が苦しくなる一方でしかない。
「ただ、隣にいてくれればいいから」
浩人さんの香りが、温もりが、声が、私を包み込む。
「俺のこと好きって言って」
もう隙間なんてないのに、さらに強く抱きしめられる。
「でも…」
「言って」
少し体が離れて、至近距離で見つめられた。
細められた瞳にじっと見つめられて、その不思議な魅力に吸い込まれそうになる。
(自信がないのに、言ってもいいのかな…)
でも、浩人さんはもう私の気持ちに気づいていて、それなら言っても言わなくても変わらない。
私が訳も分からない意地を張って、頑なに口を閉じる意味なんてどこにもないのかもしれない。
この気持ちは、確かに私の中にある。
「…好き、です」
「…知ってる」
見つめた先で、浩人さんがふっと表情を緩めた。
「な……んですか、それ」
「だって、表情で分かるから」
優しい声色で言われた言葉に、いたたまれなくなる。
一体、私は今どんな顔をしているのだろう。
そう思ったら顔を見られるのが恥ずかしくて、顔を背けながら浩人さんの胸を押した。
「離してください…」
「なんで?」
「なんでって…」
「付き合ってるから、問題ないよ?」
「付き合ってる…?」
こてん、と首を傾けて笑う浩人さんに、私は同じように首を傾けた。
「両思いでしょ?」
「…でも、付き合うわけじゃないです」
浩人さんは無言で瞬きを繰り返した。
「それは自信がないから?」
離れようとまだ腕を突っぱねる私を容易く腕に捕らえながら、浩人さんはそう尋ねる。
頷いただけで答えると、背中にあった浩人さんの腕が肩の上に移った。
「そんなこと考える必要ないよ」
真正面から顔を覗き込まれる。
近い距離に、思わずあごを引いた。
「でも…」
「じゃあ、俺の隣にいて当然って思えるぐらい、たくさん好きって言うよ」
「……え?」
「俺には真琴がいないとダメって、分かってもらえるまで」
「え?」
目の前の人が、楽しそうに笑う。
(なんか、やばいスイッチを押してしまったかもしれない…?)

