Please be absorbed in me



***

「ただいま帰りました…」

「おかえりなさいませ、真琴様」


少し重い気分で開けた玄関扉の向こうで私を出迎えたのは、私服姿の浩人さんだった。



「こんな格好で申し訳ありません。私用で出かけておりましたので」


苦笑いを浮かべる浩人さんに、私は思わず目線をそらした。


私服姿は、一緒に出かけた時のことを思い出して胸がざわつく。

思い出したくないのに、思い出してしまう。



浩人さんは私服姿で、話し言葉は執事のそれ。

もうこれ以上頭を混乱させると、余計なことを言いかねない。


「そうですか…」


浩人さんの言葉にそれしか答えられなくて、私たちの間に沈黙がおりる。


私は空気に耐えられなくなって自室へと足を踏み出すけれど、浩人さんは目の前に立ちふさがった。



「…部屋で着替えてきます」

「少し、いい?」


(!…“浩人さん”だ)


また、急に変える。

急に縮められた距離に、私はどうしても訳が分からなくなってしまう。


(なんで振り回されるの。もう、こんなに胸が苦しい…)


私が意識して置いた距離をいとも簡単に飛び越えて、浩人さんは私を翻弄する。

翻弄されたくないのに、私はどうしても自分が分からなくなる。

おかしい。

自分で自分をコントロールできない。


今、かろうじて守っている残りの距離まで飛び越えられたら、すべてを明け渡してしまうような気がする。

だから、自分の中の一番奥が流されるなと自分を律する。



「…着替えたいです」

「時間は取らないよ」


私は自分の足を見つめて、逃げる言葉を必死で探す。

浩人さんを言いくるめられるのかと不安になるけど、それでも。