気合いは入れたものの、緊張でおそるおそる扉を開くと、表情の読めない浩人さんが立っていた。
「…えっと、なんでしょう?」
「中へ入ってもよろしいですか?」
「…どうぞ」
一瞬迷うけれど、少しだけ開いていた扉を大きく開けて招き入れる。
浩人さんは綺麗な所作で扉を閉じてから振り返り、私を真っ直ぐに見つめた。
「どうぞ、真琴様はお掛けください」
部屋の真ん中辺りで立ち尽くす私を誘導して、浩人さんは、私がさっきまで座っていた椅子の背もたれに片手を置いた。
もう片方の手は、誘うように、私に向けて手の平を差し出す。
エスコートのような、執事の振る舞いのようなその仕草に招かれて、私は浩人さんの手を取った。
優しく手を握られて、軽く引き寄せられて、体がくるりと回り、私は浩人さんに背を向けた状態で椅子に座った。
それから、腰掛けた私と目線を合わせるように、浩人さんは私の横に膝を付いた。
「私は、真琴様が好きです」
直球だった。そして、唐突だった。
私は、呆然と浩人さんを見つめ返す。
執事の口調のまま、想いを伝えられたことにも戸惑った。
「……」
浩人さんは勝手だ。
いつも突然に、オンとオフを切り替える。そうやって私を混乱させる。
私はいつも不意をつかれて、翻弄されて、自分の足元がおぼつかない。
揺れて、流されるのは怖いのに。
必死に守るために作った壁も浩人さんの前では砂の壁で、流されればあっさりと崩れてしまう。
やさしく、ゆったりと、でも確実に浩人さんに崩されていく。
せき止めようとした想いが溢れてしまいそうで、私は目を閉じた。
目を見たら、きっと流されてしまう。絆されるのは嫌なのに。
「真琴様…」
私の反応がないからか、執事の浩人さんが名前を呼ぶ。
私は浩人さんの方を見ないまま目を開けて、逃げる言葉を探した。

