夕食後、自室。
浩人さんの隣に並びたいなら勉強も部活も他のことも、もっと力を入れなきゃと意気込んで、春休みの宿題をほとんど終わらせるくらいまで進めてしまった。
終わりの見えてきた課題に、勢いを失って手を止めた。
浩人さんと気まずい。
でも、どうしたらいいのか分からない。
私はどこか浩人さんを避けていて、それは聡い浩人さんならもう気づいているはず。
浩人さんには、私の考えていることなんて全部見透かされているような気がして、それがまた情けなくて、自分がひどく子供に思えてくる。
子供で、浩人さんと釣り合わない。
もう何度、同じところに思考が行き着いたか分からない。
何度目かのため息をついて、シャーペンを置いた。
(…浩人さんは、あんなにも大人なのに)
ここ数日の浩人さんは、私の執事としての仕事を完璧にこなしていた。
あまりにも様子が変わらなかったから、なかったことにしているのかも、とも思ったけれど、それは違った。
目線が合うと、何か言いたげにじっと見つめられる。
深く吸い込まれそうになって、私が先に目線をそらすのが大抵だった。
浩人さんは何も言わない。
私が言えなくさせているのかもしれない。
(なかったことにしたいのは私の方だ…)
このままずっと気まずいままなのだろうか。
浩人さんの気持ちに応えられないと曖昧に突っぱねたのは私の方。
あの時点で、こうなると予測して覚悟ができてなかった私はやっぱり未熟な子どもだ。
(浩人さんは私の執事をやめるのかな…)
その方がいいのかもしれない。
自分の中の感情は、奥の方にしまい込んでしまえばいつか薄れる。
浩人さんから離れれば、気持ちはいつか忘れられる。
初恋が一瞬ぶり返しただけのものだと思えるはず。
私が高校を卒業して、もっと色んなことを経験して、勉強して、自分に自信が持てたら、その時は私からこの気持ちを伝えられるのだろうか。
その時、もう浩人さんには相応しい女性がいるのかもしれないけれど。
「真琴様、少しよろしいでしょうか」
ノックの音に続いて、そんな言葉が聞こえてきた。
扉の向こうで待っているのは浩人さんだと声で分かった。
全然よろしくない。
でも、逃げてばかりじゃどうにもならないことも分かっている。
それに、もしかしたら何か重要な用事かもしれない。
(私は、どうしたいんだろう)
自分に問いかけてみても、まだその答えは見つからない。
最後に向き合う覚悟を決めて、扉に近づいた。

