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「真琴様、おはようございます」
聞きなれない呼び方に、意識が浮遊する。
(なんだろう、夢かな…)
「真琴様」
呼ばれている。
はっきりと呼ぶ声に、夢じゃないのかとぼんやりと考える。
(でも、聞いたことのない声…誰だろう)
もぞもぞと体を動かして、その声のする方に体を向ける。
そして、うっすらと開いた目の前に映ったのは、やわらかく微笑む、知らない男の人だった。
「…誰ですか」
「真琴様の執事の、浩人と申します」
ぼんやりと眺めていた彼の口から、突飛な単語が聞こえた。
その言葉に徐々に頭が覚醒して、私は飛び起きて、思わずベッドの上で後ずさる。
寝起きでボサボサな髪を知らない人に見られたことも恥ずかしくて、ブランケットで顔を隠し、慌てて髪に手ぐしを通した。
「なんの冗談ですか…」
「冗談ではありません。私は、真琴様の執事です」
相変わらず微笑んだまま、男の人は言う。
よく見てみると、この人の服装は井筒さんの服装とよく似ていた。
井筒さんはお祖父様のお付きの人で、執事さんだ。
この男の人が執事なのは分かった。
(でも、私の執事って…そんなの聞いてない)
「真琴様、朝食の準備ができておりますので…」
「いりません」
「はい?」
「執事なんていりません」
私がそう言うと、彼は困ったように笑う。
「しかし、お祖父様から仰せつかっております」
それなら、なかったことにしてもらえるように、お祖父様と直接話をしよう。
私はベッドから降りて、着替えを取ろうと、荷ほどきしていない荷物の方に向かおうとする。
「真琴様、お召し物ならこちらに」
そう言われてそちらを見ると、きれいに畳まれた私の洋服がその人の手にあった。
なんで…と思って荷物を置いていた方に目を向けると、そこに昨日あったはずの荷物はなかった。
(片付けてくれたんだ)
「ありがとうございます」
素直にお礼を言って服に手を伸ばすと、男の人に優しい力で手をつかまれた。
「執事ですので、私が」
「…遠慮します」
「そうおっしゃらずに」
にこ、と笑顔を浮かべて、なんておかしなことを言うんだろう。
「自分で着替えます」
「左様ですか…」
分かりやすく落ち込む様子に心が痛まないでもないけれど、それとこれとは話が別。
「はい、着替えるので出てください」
「かしこまりました。外でお待ちしております」
静かに閉じた扉を見つめて、私はなんとも言い難い、苦い想いを胸の中に押し込んだ。

