***
「真琴様、朝ですよ」
聞きなれない呼び方に、意識が浮遊する。
(なんだろう、夢かな…)
「真琴様」
呼ばれている。
はっきりとした声に、夢じゃないのかとぼんやりと考える。
(でも、聞いたことのない声…誰だろう)
もぞもぞと体を動かして、その声のする方に体を向ける。
そうしてうっすらと開いた目の前に映ったのは、やわらかく微笑む男の人だった。
「…誰ですか」
「真琴様の執事の、浩人と申します」
ぼんやりと眺めていた彼の口から、突飛な単語が聞こえた。
徐々に頭が覚醒して、私は飛び起きてベッドの上で後ずさる。
寝起きで髪がまとまってない状態を知らない人に見られることが恥ずかしくて、ブランケットで顔を隠し慌てて髪に手ぐしを通した。
「なんの、冗談ですか…」
「冗談ではありません。私は、真琴様の執事です」
相変わらず微笑んだまま、その人は言う。
よく見てみれば、この人の服装はおじい様の執事である井筒さんの服装とよく似ている。
この人が執事なのは分かった。
(でも、私の執事ってなに)
「真琴様、朝食の準備ができておりますので…」
「いりません」
「はい?」
「執事なんていりません」
私がそう言うと、彼は困ったように笑う。
「しかし、これはおじい様の指示でございます」
それなら、なかったことにしてもらえるように、おじい様と交渉しよう。
私はベッドから降りて、着替えを取ろうと荷ほどきしていない荷物の方に向かう。

