「どれくらい待とうか?俺は、いつまででも構わないけど」
冗談なのか本気なのか、からかうような優しい声が言った。
手を握りなおす仕草にドキリとする反面、手慣れたその仕草に心が重くなる。
触れるほど近くにいるのに、また距離を感じる。
少し冷静になって考えてみれば、浩人さんが度々変える距離に翻弄されて、頭がオーバーヒートしてばかりだ。
どうしたらいいのか分からなくなってかけたストップの言葉。
でも、このまま待ってもらったところで、何も解決はしない。
「あの、もう大丈夫です」
そう言って腕を引いて逃げようとしてみるけれど、手は握られたまま、浩人さんは距離を取ることを許してくれない。
「“待って”って、何に対して?」
解こうとした手はまた握り直されて、浩人さんが私に問い掛ける。
「何って……」
聞かないでほしい。
答えられるわけがない。
それに答えてしまったら、好きだって伝えるようなものだ。
「ん?」
「なんでもありません…」
「教えてくれないの?」
「……っ」
言えるわけがない、と私は首を横に振る。
「教えてくれないと、手離さないよ?」
「……ずるいです」
「なんとでも」
不敵な笑みを向けられ、握る手に力が込められる。
骨ばった指が、簡単には解けない力で私の手を捕らえている。
「ほら、教えて?」
私が引き寄せられたのか、浩人さんが顔を寄せたのか、空けていた距離が縮まる。
浩人さんの声がほとんどダイレクトに耳に届く。
こんなの抱き締められているのと変わらない。
(心臓、痛い…)
近付いた距離に頭が沸騰して、視界がゆらゆらと揺れた。

