開いたのか、縮まったのか、分からない浩人さんとの距離。
バクバクと早鐘を打つ胸が苦しくて、浩人さんの服を掴んだ自分の手はかすかに震えていた。
頭のどこか片隅で思う。
これは不安なのだろうか。それとも、怖い?
どうして私は震えているのだろう。
分からない。
執事の浩人さんと浩人さん自身と、どっちの方が遠いのか、近いのか。
さっきまでの距離はどれくらいで、今の距離はどれくらいなんだろう。
浩人さんとの関係って何なんだろう。
その距離を測れなくて、どうしたらいいのかも分からなくなる。
自分の立っている位置が分からないから、どれくらい距離を取ればいいのかも分からない。
「真琴様…?」
「待って、ください…」
そう溢して目線を泳がせて、浩人さんの服の裾を掴む自分の手が視界に入る。
思わずしていた行動が恥ずかしくなって、慌てて手を離した。
「…うん、待つよ」
離した手を握られて、もはや反射的に手を引く。
でも、逃げようとした手は握られたまま、浩人さんが真っ直ぐに私を見つめた。
「待つから、ゆっくりでいいよ」
その表情は胸に焼き付いた。
深い色の瞳が意識を飲み込んでいく。
浩人さんの視線に捕らえられたまま、たぶん私の顔は赤くなっていると分かっているのに、体が動かなかった。
浩人さんの手を振り払えない。
触れたところから鼓動が伝わってしまいそうなのに。
この気持ちがばれてしまうのに。
(嫌だ)
私の心はとっくに浩人さんに捕らえられていて、この感情は、もう変えることも、消すこともできない。
でも、それでも、この気持ちを口にすることはできない。
残念なことに、私は、この人の隣に立てる自信を持ち合わせていない。

