***
「そろそろ冷えてきたね」
言われて初めて周りを見渡せば、すでに空は薄暗くなり始めていた。
新学期も近く、すでに春の陽気にはなっているけれど、やはり夕方からは気温が下がる。
「本当だ…」
夕方だと気づいた途端に寒さを感じる。
その一方で、気づかないほど話に夢中になっていたんだ、と自分で驚いた。
浩人さんの今までの経験、好きなものや思うことを聞いて、話して、大人だと思った。
考え方も、感じ方も、高校生の私とはまるで違う。
浩人さんの頭が良いということもあるけれど、たぶん4歳の差は大きい。
私の何十歩も先を歩いている。
執事ではなく、ただの人として向き合ってみれば、ずっと離れた場所にいる雲の上の人だと明らかになる。
「そろそろ行こうか」
席を立った浩人さんに続いて立ち上がり、その背中を追いかけた。
この人が私を好きだなんて冗談に決まっている。
私なんかが釣り合う人じゃない。
「体、冷えてない?」
お店を出て振り返った浩人さんは、私にグレーのストールをかける。
「ありがとうございます…」
それはさっきまで浩人さんがゆるく首元に巻いていたもの。
かすかに、慣れない匂いが鼻をかすめた。
浩人さんの隣に立つのは、もっと大人な女性だ。
私は並びたくても釣り合わない。
「どうしたの?」
思わず足を止めていて、先に歩き出していた浩人さんが振り向いた。
「いえ、なんでもありません」
感じた引け目を浩人さんには隠し、胸の中の感情は奥深くへと飲み込んで、笑顔をつくった。

