Please be absorbed in me



***

「真琴様、お水のおかわりはいかがですか?」

「あ…いただきます」


執事の浩人さんの、その口調に戸惑う。

お祖父様のお屋敷に帰ってきて、着替えのために一度別れて、次に浩人さんと会った時には、浩人さんはすでに“執事”になっていた。

分かっている。
お祖父様のお屋敷では、浩人さんは執事だ。
それを寂しいと思うなんて間違っている。

それにどちらかと言えば、執事の浩人さんの方が身近なのかもしれない。

今日、一緒に出掛けてみて分かった。
浩人さんは大人で、高校生の私とはかけ離れてて、遠い存在。
追いつきたくても、浩人さんがいる場所は遥か高いところで、追いつける気がしない。

その点、執事の浩人さんは私に合わせてくれる。
執事として関わるから、年とか、経験とか、気にしなくていい。

でも、執事の浩人さんとの間には薄い壁があって、一定の距離が保たれていて、それが寂しい。

矛盾している。
自分の中でぐるぐると、わがままな思いが堂々巡りだ。

厄介にも、幼い頃の初恋は今の心にも影響を及ぼして、違うと否定したいのに胸が高鳴る。

ぶり返した過去の感情は、成長した今、何かきっかけさえあれば途端に溢れそうだった。

幼い頃の恋心はただの憧れ。
そんな風に最初に初恋を否定したのは、きっと今の自分の気持ちを否定したかったから。

浩人さんとは立っている場所が違うと、なんとなく初めから察していたのかもしれない。


(好きじゃない。かっこいいからドキドキするだけ)


自分にそう言い聞かせて、浩人さんに抱き始めている恋愛感情を捨てようとした。

どう否定してみたところで、結局のところ気持ちは変わらない。

でも、この気持ちを自覚したところで、どうしようもない。


(好きなんて、私が言えるわけない…)


浩人さんが注いでくれた水を口に含み、吐露できない言葉と一緒に飲み込んだ。