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「真琴様、お水のおかわりはいかがですか?」
「あ…いただきます」
執事の浩人さんの、その口調に戸惑う。
お祖父様のお屋敷に帰ってきて、着替えのために一度別れて、次に浩人さんと会った時には、浩人さんはすでに“執事”になっていた。
分かっている。
お祖父様のお屋敷では、浩人さんは執事だ。
それを寂しいと思うなんて間違っている。
それにどちらかと言えば、執事の浩人さんの方が身近なのかもしれない。
今日、一緒に出掛けてみて分かった。
浩人さんは大人で、高校生の私とはかけ離れてて、遠い存在。
追いつきたくても、浩人さんがいる場所は遥か高いところで、追いつける気がしない。
その点、執事の浩人さんは私に合わせてくれる。
執事として関わるから、年とか、経験とか、気にしなくていい。
でも、執事の浩人さんとの間には薄い壁があって、一定の距離が保たれていて、それが寂しい。
矛盾している。
自分の中でぐるぐると、わがままな思いが堂々巡りだ。
厄介にも、幼い頃の初恋は今の心にも影響を及ぼして、違うと否定したいのに胸が高鳴る。
ぶり返した過去の感情は、成長した今、何かきっかけさえあれば途端に溢れそうだった。
幼い頃の恋心はただの憧れ。
そんな風に最初に初恋を否定したのは、きっと今の自分の気持ちを否定したかったから。
浩人さんとは立っている場所が違うと、なんとなく初めから察していたのかもしれない。
(好きじゃない。かっこいいからドキドキするだけ)
自分にそう言い聞かせて、浩人さんに抱き始めている恋愛感情を捨てようとした。
どう否定してみたところで、結局のところ気持ちは変わらない。
でも、この気持ちを自覚したところで、どうしようもない。
(好きなんて、私が言えるわけない…)
浩人さんが注いでくれた水を口に含み、吐露できない言葉と一緒に飲み込んだ。

