Please be absorbed in me


***

「そろそろ冷えてきたね」


浩人さんに言われて初めて周りを見渡すと、すでに空は夕焼けに染まっていた。

新学期も近く、すでに春の陽気にはなっているけれど、やっぱり夕方からは気温が下がって肌寒い。


「本当だ…」


夕方だと気づいた途端に寒さを感じる。

その一方で、気づかないほど話に夢中になっていたんだ、と自分で驚いた。

あと数口残っているホットミルクティーも、今ではもう冷めてしまっている。

それだけの時間、浩人さんの今までの経験、好きなものや読んだ本、見た映画などを聞いて、話して、大人だと思った。

考え方も、感じ方も、高校生の私とはまるで違う。

浩人さんの頭が良いということもあるけれど、たぶん4歳の差は大きい。

私の何十歩も先を歩いている。

執事ではなく、ただの人として向き合ってみれば、ずっと離れた場所にいる雲の上の人だと分かった。


「そろそろ行こうか」


席を立った浩人さんに続いて立ち上がり、その背中を追いかける。

こんな素敵な人が私を好きだなんて、冗談に決まっている。

私なんかが釣り合う人じゃない。


「体、冷えてない?」


お店を出た浩人さんは、私にグレーのストールをかけてくれる。


「ありがとうございます…」


それはさっきまで浩人さんがゆるく首元に巻いていたもの。
かすかに、慣れない匂いが鼻をかすめた。

浩人さんの隣に立つのは、もっと大人な女性だ。

私は並びたくても到底釣り合わない。


「どうしたの?」


思わず足を止めていて、先に歩き出していた浩人さんが振り向いた。


「いえ、なんでもありません」


感じた引け目を浩人さんには隠し、胸の中の感情は奥深くへと飲み込んで、笑顔をつくった。