Please be absorbed in me



***

「やぁ、大きくなったねぇ」


引っ越しと言っても、家具はお祖父様の家にそろえられているため、洋服や小物、勉強道具、部活関係のものだけの荷造りで終わった。

あまりにも簡単に終わった荷造りのせいで、引っ越しという感覚はあまりなかった。



何年ぶりかに訪れた家は相変わらず立派な風貌で、これからここで生活すると思うと、緊張して肩に力が入る。


「これからお世話になります」


玄関で出迎えてくれたお祖父様に頭を下げる。
記憶の中の見た目と変わっていなくて、ほっと息をついた。

(元気そうでよかった)


「そんなにかしこまらなくていいんだよ」


のんびりと応え、やわらかく笑うお祖父様につられて自分も笑顔になった。

お祖父様のお付きの人とも軽い挨拶をして、私の部屋に案内してもらう。

「こちらになります」と案内された部屋は、予想以上に広く、綺麗な装飾が施されたアールデコ調の部屋で、思わずキョロキョロと目線を泳がせる。


(広い…これで1人部屋?)


一通り部屋の説明をして、綺麗なお辞儀をしてから部屋を後にするお付きの人を見送り、部屋の中をぐるりと見渡す。

馴染みのない広い空間に1人という状況は、なんだか落ち着かない。

部屋の中をうろうろと歩いてみて、息をつく。


(寝よう…)


両親の出国を見送ってからここに来たため、時刻は10時を回っていた。

お風呂に入って寝る。
そうすれば、少しはこの家に慣れて、緊張も和らぐはずだ。

服を入れた箱が数個、扉の近くに置いたままにしてしまっているけれど、荷物の整理は明日にしよう。


タイミング良く、部屋にノックの音が響いて、先程のおじい様のお付きの人、井筒(いづつ)さんが顔をのぞかせた。


「お風呂の用意ができておりますが、いかがされますか」

「お借りします」

「かしこまりました」


井筒さんの丁寧な口調に思わずつられてしまう。

そんな自分の口元を押さえながら彼の後についていった。