「…真琴様?」
うつむいた私の顔を覗き込むようにしながら、浩人さんの手がそっと肩に触れる。
「“なんで…”の続きは?」
頬に浩人さんの手が触れて、顔を上げさせられて、浩人さんが顔を寄せた。
合わせられた瞳の深い色に心臓がはねて、心臓が痛いくらいに高鳴った。
ドキドキとうるさくて、浩人さんに聞こえてしまうんじゃないかと焦る。
「続き、聞きたいな」
細められた目が真っ直ぐに私を見ている。
捕らえられたように目をそらせなくて、私はいつの間にか服の上から自分の胸を押さえたまま、ただその瞳を見つめ返した。
「教えて?」
優しくさとす声に促されて、喋らなきゃ、と思う。
「…なんで、敬語使うんですか」
「そうだね。俺、矛盾してた」
(敬語じゃない。しかも、一人称変わって…)
一拍遅れて飲み込めた事実に、思わず呼吸を忘れる。
なんで胸が苦しくなるのだろう。
目の前にいる執事さんが、ただの男の人になった。
それだけなのに。
どうして、私はこんなにも嬉しくて胸が痛いの。
「許されるなら、執事という立場を忘れるよ」
「…私が、許せばいいんですか?」
「そう」
口調が変わるだけでこんなにも違う。
浩人さんが、私の前ではただの男の人だ。
今初めて、浩人さんという1人の男の人と向き合えている。
「私と2人のときは、忘れてください」
見つめた先で、浩人さんはさらに目を細めた。
「ありがとう。約束する」
頭を撫でられて驚きつつ、約束という言葉に懐かしさを感じて、私は表情を緩めた。

