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少し遠出をしましょう、という浩人さんの提案に頷き、私は電車に揺られていた。
学校の近くで誰かに遭遇するよりは…と思って頷いたけど、そもそもデートってなに。
まだ浩人さんの言葉の意味もハッキリしていないのに。
春休みで平日でも人が多い車両内で、私は座席横の手すりに寄りかかって密かに眉をしかめた。
それに、この状況はどうしたらいいんだろう。
目の前の浩人さんは、私が寄りかかっている手すりの上の方を掴んでいて、自然と向かい合った状態になっていた。
(近い…)
「どうかしましたか?難しいお顔をされていますよ」
「なんでもありません…」
昨日に引き続き、周りから送られる女の子たちの視線を気にした様子もなく、浩人さんは私に笑いかけた。
朝の件をまるで気にしていないような振る舞いに、浩人さんさんのことがよく分からなくなる。
深い意味なんてなかったのだろうか。
「そうですか」
この近さでその笑顔はずるい。
私服に着替えているのもずるい。
顔が熱くなるのは仕方ない。
気を紛らわすのも兼ねて、私は、言おうと思っていたことを言葉にしようと口を開く。
「…あの、敬語やめてください」
「なぜですか?」
電車の揺れのせいか、浩人さんとの距離がグッと縮まる。
「大人が高校生に敬語を使うのは変です」
「ですが…」
浩人さんの渋るような返事に、胸が痛むのを自覚した。
確かに、急に「敬語をやめてほしい」なんて言われても、すぐに切り替えれるものじゃないだろうけど。
(でも、嫌だ…)
だって、分からなくなる。
浩人さんの気持ちが、本当の心が見えない。
浩人さんが敬語を使うのは、きっと浩人さんが私の執事という立場だから。
でも同時に、デートしましょうと言ったのも浩人さんだ。
わざわざデートという言葉を使ったのに、浩人さんは自分が執事だというスタイルを崩そうとしない。
(浩人さんの本心は、どこにあるの?)
そこで自覚する。私は試していた。
浩人さんが敬語をやめてくれたら、やめてくれなかったら。
浩人さんは“執事”で“ひろお兄ちゃん”なのか、違うのか。
浩人さんが何を望んでいるのか。
ぼんやりと曖昧なまま、だけど、きっとそこにある浩人さんの本当の心を、私は知りたい。
「デートって言うなら、なんで…」
思わず口をついた言葉。
あまりにも素直に言ってしまった自分に驚き、慌てて口を押さえた。

