Please be absorbed in me



***

「わ…私、やっぱり帰ります」


回れ右、をした私だったけれど、繋がれたままの手が帰らせてはくれなかった。


「今日のお出かけの目的はここなので、帰られては困ります」


相変わらず微笑んだまま、浩人さんは私を連れてお店の中へと入っていく。


(目的って…)


連れてこられたのは、高校生の私が行くような店ではない高級洋服店。
並んでいる服は明らかに普段服じゃない。


「何を買うんですか…」

「真琴様のドレスです」

「…帰る!」

「いけませんよ」

「…ドレスなんていらないですから」


逃げようとして、でも、繋いだ手を引き寄せられて、浩人さんとの距離を縮められる。
そして、浩人さんは、私の腰に腕を回してきた。

洋画で見たことある、パーティーでのエスコートと同じことをされるなんて、思いもよらないことに頭が混乱する。


「お祖父様から、真琴様のドレスを見立ててこいと仰せつかったのです」


この体勢は近すぎる。
体は思ったよりもくっついているし、浩人さんの声がすぐ耳元で聞こえる。


「そんなの、いつ着るんですか…」

「何度も機会はありますよ」


浩人さんから顔を背ける。
自分の顔が熱いのを自覚する。

これは仕事。彼にとってはただの仕事だ。


「いらっしゃいませ」


腰に手を添えられたまま店に入れば、きれいな店員さんが歩いてくる。


「こちら、東堂のお嬢様です」


すぐ近くで浩人さんの声が響いて、触れる体温が慣れなくて顔が熱い。

こんなにドキドキしてるのは、仕方がない。

だって、この状況はおかしすぎる。


(こんな非日常、ついていけない…!)