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お風呂に入って、夕食も終えて、今日はなんの予定もないからベッドに飛び込んだ。
宿題は明日やればいいし、少し疲れているから何もやる気が起きない。
とはいえ、寝るにはまだ早すぎる。
……浩人さんのところ行ってもいいかな。
たしか、浩人さんも予定は入ってないはず。
今は自分の部屋にいると思う。
「……」
会いたい。
こんなに何もない日は貴重で、この先しばらく忙しくなるかもしれない。
勢いでベッドから起き、自分に言い訳をしながら廊下へと続く部屋のドアを開けた。
「おっ…と、びっくりした」
扉を開けると浩人さんがいて、開けたドアの先で浩人さんは目を大きくした。
思ってもみない状況に、私の思考は停止する。
「……」
「お邪魔していい?どこか行くつもりだった?」
固まっている私を、浩人さんが覗き込む。
会いに行こうとしたら、向こうも会いに来てくれたらしい。
ようやく状況を飲み込むと、心臓がばくばくと音を立て始めた。
だって、会いたいと思ってた人が突然現れるって心臓に悪い。
自分で会いに行く方が、心の準備ができる分いいかもしれない。
「真琴?」
「あ、はいっ。どうぞ…」
しかも既に“浩人さん”だ。
執事としてじゃない、恋人として。
こうやって私を翻弄していることに気づいているのかいないのか。
頭の回転が早いこの人なら、気づいてるんだろうな…と、招き入れた浩人さんの背中をなんとなく睨んでみた。
「どこか行くつもりじゃなかったの?」
ドアを閉じた私を振り返って、浩人さんが言う。
その姿に、今度は私が目を大きく見開いた。
私はかなり動揺していたらしい、と自分に絶句しながら、思わず浩人さんをじっと見つめてしまう。
浩人さんは私服だった。
この時間帯に私服はすごく珍しい。
というか私服姿が貴重だ。
2人で出かける時は私服だけど、私服で出かけたのは2、3回しかない。
家でのいつもと違う雰囲気に、また心臓がばくばくとうるさくなる。
「真琴?」
「だ…大丈夫です。なんでもなかったので…」
なんだか直視できなくて、微妙に目線を逸らしつつ答える。
それに、「浩人さんに会いに行こうとしてました」なんて言えるわけがない。
なんか、いろいろ恥ずかしくて目を合わせられない。
私服姿も、自分が会いに行こうとしてたことも、全部が作用して顔が熱い。
「そっか」
楽しそうに笑う浩人さんに手を引かれて、ソファへと向かう。
腰を下ろして、横から優しく触れた手が私を引き寄せて、軽く唇が重なった。
「今日はゆっくりできるね」
近くで、優しく笑うのは反則。
近すぎる距離にめまいを感じながら、その言葉に小さく頷いた。

