恋は天使の寝息のあとに

『今は』って――

昔付き合っていたという意味にも取れるけれど、これから付き合いたいっていう意味にも取れる。

里香さんは、恭弥のことをどう思っているのだろうか。
なにしろ自分から腕を絡ませて歩くくらいだ。
里香さんの感情が、過去で終わっていると思えないのは、私が深読みしすぎだろうか。


「恭弥とは、高校が一緒だったの。だから、随分古い仲になるわね」

里香さんは懐かしむようにそう言って、積み木を胸元まで積み上げた心菜に向かって「よくできましたねー」と頭を撫でた。

恭弥は三十歳だから、もう十五年近く一緒にいるんだ。
それはとても遠く長く、私と恭弥の関係なんて足元にも及ばない気がした。

その十五年間の中で
付き合っていたというのは、どこからどこまでだろうか。

そして、別れたというのに今でも一緒にいる理由は、何なのだろう。

恭弥の何でも知っているであろう目の前の美しい女性に、胸がきゅうっと苦しくなって、それが嫉妬なのだということは考えるまでもなく分かった。


「恭弥、良いパパしてる?」

ふと里香さんが問いかけてきて、私は慌てて「はい」と頷いた。

「恭弥、変わったでしょう」心菜の積み木を手伝いながら、里香さんはとうとうと語る。

私は「はぁ」と曖昧に頷いた。

私たちの関係が変わったことは確かなのだが、恭弥自身が変わったかと言われるとよく分からない。

「兄妹といっても、正直、恭弥さんのことをあまりよく知らないんです」

私が答えると、あら、そうなの? と里香さんは不思議そうに首を傾げた。