恋は天使の寝息のあとに

ひょっとして怪我をした心菜のために、わざわざ保育士である彼女を呼びたててくれたのだろうか。

「心菜のために、呼んでくれたの？」

私が恭弥を見上げると、彼はいや、と私を一瞥し

「たまたま一緒にいたから、連れてきた」

ぶっきらぼうにそう答えた。

たまたま？

私は恭弥の顔をじぃっと覗き込む。

一緒にいたってことは
デートをしていた、ってことだろうか。
この前の日曜日も会っていたし、平日の仕事帰りも会ってるの？
元カノって言ってたくせに、そんなに頻繁に顔を合わせているなんて。
今は付き合っていないなんて言ってたけど、どこまで本当か疑わしい。

気がつくと眉間に皺が寄ってしまっていたらしくて
不機嫌そうな私の顔を見た恭弥が「……だって会うなって言わなかっただろ」小声でそんな言い訳をした。


恭弥と彼女が心菜に目をやりながら言葉を交わす。
「可愛いねー。今いくつだっけ？」
「一歳六ヶ月」
「どうせ恭弥のことだから、顔に似合わずデレデレしちゃってるんでしょ」
「うるせぇよ」
「昔っからそうだよね。ほら、うちの猫にも――」
「どんだけ昔の話してんだよ」

些細なことを話す恭弥と彼女の姿を見ていると、それはあまりにしっくりときていて、長年連れ添っているかのような信頼関係を感じた。

『知り合い』とか、『友人』とか、『元カノ』ではなくて
それはまるで『パートナー』。

ひょっとして私たちと一緒にいるとき以外はしょっちゅう会っていたりするのかな？
ふと恭弥のマンションに入っていった彼女の姿を思い出して、ハッとする。

もしかして、同棲してる？？
たまたま一緒にいたどころか、常に一緒にいたりする？