「ねぇ恭弥」

不機嫌な恭弥につられて私の声まで低くなる。
彼に背を向けてお釜からご飯をよそりながら、彼の名を呼んだ。

いつもは続かなかった世間話を、今なら普通にできるかもしれない。
私と恭弥の関係が、良い方向に傾いたと信じたい。
祈るように、言葉を紡いだ。

「恭弥の好きなおかず、何?」

「は?」

背後から間抜けな声が聞こえた。確かに、突拍子のなかった私が悪い。
なんでも聞いていいって言うから、なんでも聞いたまでなのだが。

「だってさ、恭弥って、一緒にご飯食べてても、何が好きとか嫌いとか、全然言ってくれないんだもん。
夕飯に何が食べたいか聞いても、だいたい『何でもいい』って言われるし」

白いご飯が山になったお茶碗を返しながら私が口を尖らせると、恭弥は拍子抜けしたように肩を落とした。
終いには、視線を落としたまま、くつくつと含み笑いを始める。

「出されたもんは何でも食うよ」

「それじゃダメなんだってば。恭弥の好きなものを作りたいのに」

身を乗り出して異を唱える私に、恭弥はうつむきながら答える。

「お前の作る飯はだいたい好きだよ」


どうしてそんな最高の誉め言葉を無表情のまま言えるんだろう。
再び胸がぎゅっと掴まれたように苦しくなって、私の顔は余計にむすっと膨れる。

「全然答えになってないよ」

動揺して震える声を不機嫌な口調でごまかした。