恋は天使の寝息のあとに

これはもはや性格と片付けるしかない。
自分から前に出るタイプではないし、他人を引っ張っていくような気概もない。
いつも誰かの後ろにくっついて、与えられたものを素直に受け取りながら生きてきた。

結婚だって彼――心菜の父親から押し切られたからだし、心菜を妊娠したのだって成り行きだ。
自分で決断できたのは離婚くらいか。それも、限界まで追い詰められての決断だった。


「なんかさ、お前の親父さんが、俺に『沙菜をよろしく』って言った意味がわかるわ」

恭弥がさらに歩くペースを落として私の真横に付きながら、ぽつりと呟いた。

「どういうこと?」

「だってお前、頼りなくて、前を歩かせられねぇよ」

「頼りないって失礼な! どういうこと?」

じゃあ前を歩いてみろよと言って、恭弥は私の後ろに一歩下がった。
私は数歩、彼の前を歩くが、また心配になって恭弥の方を振り向いてしまう。


やっぱり後ろを振り返った私に、恭弥は含むようにくっくっくと笑った。

「だから、不安になりすぎだって」

そう言って私の隣へ戻ってくる。
私の背中を、まるで安心しろとでもいうようにポンポンと叩く。


悔しくなってむくれる私に、聞こえるか聞こえないかってくらいの小さい声で、恭弥がこっそり囁いた。

「――くてごめんな」

「……え?」

「……なんでもない」

恭弥はそう言ってごまかすと、私の背に触れていた手を自分のポケットの中に戻した。

私の背中には、再び冷たい秋の風が打ちつける。