「……お前は、俺のことを『お兄ちゃん』とか思ったこと、あるのか?」

「……ないです」

「じゃあ、問題なくね?」

俺の意見に、彼女はしぶしぶ頷く。
表情に不安を残しつつも、他に文句もないようなので、俺は再び口づけようと顔を近づけた。
が、

「ま、待って!」

再び彼女が俺の身体を押しのける。

「まだ何かあるのかよ!」

いい加減抱きたいのに、彼女の身体を手に入れたいのに、散々な焦らしに苛々としながら彼女の顔を睨みつける。
お前は知らないだろうけれどこっちはずっと我慢してたんだ。


彼女は申し訳ないような顔をしながらも、固い決意で俺を見上げた。

「片付けなきゃいけないことがあるから……」

そう言った彼女がぎゅっと拳を握り締めるのを見て、ああ、と俺は短く息を吐いた。


元夫との――心菜の本当の父親との――関係の清算。


逃げ出したとか言っていたから、きっとあの男には何も打ち明けられないまま家を飛び出してきたのだろう。
確かにそっちを片付ける方が先なのかもしれない。
逃走の延長線上で結ばれたとしても、二人の関係よりも現実逃避が先立ってしまいそうだ。
仕方なく、俺はこれ以上彼女に触れるのを諦めた。

おもむろにベッドへ向かい、心菜が寝ている足元でくしゃっと丸まっている布団を綺麗に正した。
ぽんぽんと枕を叩いて、彼女へ合図を送る。

「今日は遅いから、お前ももう寝ろ。
朝になったら一緒に行ってやるから。
そしたらアイツと、ケリつけよう」