しばらく経っても彼女は一向に泣き止まなかった。今までよっぽど涙を我慢してきたのだろうか。
思いっきり泣き続ける彼女の顔は無残で

「あーあ、ぐちゃぐちゃ」俺が思わず呟くと

「見ないでよ……」彼女は怒ったようにうつむいた。

手を伸ばしてなんとか届いたティッシュペーパーで彼女の涙と鼻を拭おうとしたら、嫌がって顔を背けられた。

「じ、自分でできるからっ」

「いいから、顔貸せ」

「や、やだ、やめてよ」

「なんで」

「……汚いし、恥ずかしいじゃん」

「何が今さら恥ずかしいんだよ」

こんだけ散々泣いといて今さら何だ、と強引に彼女の鼻を拭いてやる。

「……心菜のお世話じゃないんだから」

むくれる彼女に、俺は小さく吹き出した。

「心菜の方がお前よりよっぽど甘え上手だ。少しは見習え」


彼女の頬にそっと触れ、今しがたの約束で俺のものになった唇へそっと口づける。

彼女のリアクションを見ようと覗き込むと、困ったような戸惑っているような、なんとも複雑な顔つきで瞳を漂わせていた。

「なんだよその顔、嫌なの?」

「……そ、そうじゃなくて、緊張するっていうか」

「別に。初めてじゃあるまいし」

「でもっ……だって……どうしていいか、わからなくて」

彼女はもじもじと言い難そうにして、その小さい身体を余計に小さくする。

「私たち今まで『兄妹』だったのに……突然こんなこと……」

「……」

俺は思わず押し黙った。
戸惑うのが普通なのか? そういうものなのか?
改まって『妹』として見たことがなかったから、正直よく分からない。