「わかった。
ずっと、そばにいる」

俺の言葉に、彼女はひくひくと嗚咽を溢しながら肩を震わせる。
しかし再び首を横に振り、躊躇いを見せた。

「でも、それじゃ恭弥が……」

まだ言うか。強情。

俺はそっと彼女の身体を引き離すと、呆れた顔で彼女を覗き込む。
どうしたらいいか分からないというような不安げな瞳がこちらを見ていた。
一体、何と言えば納得してくれるというのか。
貰うだけが嫌ならば、ギブアンドテイクなら問題ないのだろうか。

「なら、等価交換にしよう」

俺が提案すると、彼女の顔がぽかんとなった。
わかりやすく言うと、こういうことだ。

「俺の人生全部捧げて、お前と心菜を幸せにしてやる。
だから――」

彼女の額に自分の額をコツンとくっつけて、俺は瞳を閉じる。

「お前の人生を俺に捧げろ」


すぐに『でも』という彼女に迷う隙なんか与えない。
強い口調で、有無を言わさず、命令した。

「俺のそばにいろ。俺のものになれ」


彼女がどんな顔をしているのか、少しばかり緊張しながら目を開く。
たっぷりと水分を含んでキラキラと輝く彼女の瞳が、驚きで揺れていた。

「私の人生なんかでいいの……?」

俺が黙って頷くと、彼女は顔をくしゃっと歪ませて、ぎゅっと目を瞑った。その拍子に瞳にたまっていた涙がほろりと溢れ落ちる。
やっと彼女が、うん、と頷いたから、俺は今度こそ安堵のため息をついた。

「じゃあ、交渉成立な」

彼女の右手の小指に自分の小指を絡め、手の甲にそっと口づけて、この約束に誓いを立てる。

彼女は頬を赤くしたあと、再びわあっと泣き出したから、その身体をぎゅっと強く包み込んでやった。