「……どうして悪態ばっかりつくの……
優しいくせに、冷たくて、恭弥って本当に訳分からない……」

いじけるように呟く彼女。言葉とは裏腹に身体をぎゅっと寄せてきたから、たぶん甘えたいのだと思うのだけれど。

分からないのはこっちも同じだ。
お前は俺にどこまで求めている?
兄として? 心菜の父親として? 俺はどんな顔でお前に向き合えばいい?
お前の態度はころころ変わるし、少し踏み込めばすぐ泣くし、俺こそお前が理解できない。
このままじゃあ、お互い探り探りで埒が明かない。

そんなに分かり難いのなら、嫌でも分かるような言葉を選ぼう。

「もっと頼っていいって、言っただろ。
口が悪いのはどうしようもねぇの。これでも俺なりに、お前を大切にしてる……つもり」

俺の言葉に、彼女はぐすっと鼻を鳴らして、もう一筋涙を溢した。

「それで、何があった?」

彼女は泣き声を噛み殺しながら、たどたどしく答える。

「……ダメだった……
翔とやり直そうとしたけど、やっぱりダメ……
逃げてきちゃった……」

彼女が俺の肩に瞳を押し付けて、わぁっと泣き出す。

「……全部うまくいくと思ったのに……
心菜も恭弥も、みんな幸せになれると思ったのに……」

……なんでそこで俺が出てくる?
お前がアイツと寄りを戻すことが何故俺の幸せに繋がるのだろう。

一体何をそんなに気張っているんだか。俺は嘆息しながら彼女の頭を撫でた。

「無理してまでアイツとやり直そうとしなくていい。
また俺が手伝いに行ってやるから」

俺の言葉に、彼女は真っ赤になった瞳をこちらに向ける。

「でも、私と心菜がいたら、恭弥の自由がなくなっちゃう……
私たちのせいで、自分を犠牲にしないで……
恭弥にはちゃんと幸せになって欲しいよ……
もうこれ以上、迷惑かけたくない……」

だから。またそうやって。
頼んでもないのに無駄な方向へ気を回す。

回りくどくて苛々してきた。