子育ては思った以上に過酷だった。
初めての寝かしつけ、初めてのおむつ替え、初めての看病――

当初は月に一、二回、実家へ帰って様子を見てやればいいかなんて気楽なことを考えていたのだが、実際の大変さを知ってしまったら見て見ぬ振りをするわけにはいかなくなった。

出産でふくよかになっていた彼女の身体は、家事と子育てに疲労と睡眠不足が加わって、みるみるうちにやつれていった。
それはそれは痛々しくて、月に一、二回の帰省予定は気がついたら毎週土日に変わっていた。

慣れないながらも毎日ひとりで頑張っている彼女に、今日はのんびりしてたいから手伝いに来ない、なんて、どうして言えるだろう。


子どもが産まれて半年が過ぎた頃だったか。
彼女が部屋の隅でこっそりと泣いているのを見たことがある。

理由はわからない。
疲れだろうか、不安だろうか、これからひとりで育てなければならないことに対するプレッシャーだろうか。

母は強しなんていうけれど、母親になれば勝手に強くなるわけじゃない。結果論だろう。頑張るしかないから強く見える。
彼女の場合、俺からしてみれば、中身はただの弱い女の子だった。

震える彼女を、抱きしめてやってもいいだろうか?

こういうとき、『兄』ならどうするべきなのだろう。
……一人っ子の俺には、そういうの、わかんねぇよ。

結局、拒まれることを恐れた俺は、肩を震わせる彼女に何もしてやることができなかった。
その代わり、せめて少しでも多く時間を彼女と心菜のために使ってやろうという結論に至った。