恋は天使の寝息のあとに

一週間経って、二週間経って、翔の態度は次第に悪化していった。

普段は温厚で優しいお父さんである彼も、一旦心菜が泣き始めると、ときには声を荒げ、ときには不機嫌そうに黙り込み、人が変わったようにその態度を変える。
私は怖くて仕方がなかった。
翔の苛立ちがいつ『暴力』という形で現れるか。
もしかしたら取り越し苦労で、そんな日はこないかも知れない。
が、前例はある。
いつの間にか、その不安自体がストレスとなり、私の心は消耗していった。


翔は、心菜の大泣きをなんとか避けたいらしかった。
そして、お菓子をあげ続ければ、心菜のご機嫌を取れることに気づいたらしい。
気がつくと、数日かけて食べるはずの菓子パンがすでに空になっていて、引き換えに心菜のお腹がパンパンに膨れ上がっていた。

「翔、これ、全部心菜にあげちゃったの!?」

「心菜が食べたいってきかないんだ」

「子どもは満腹中枢がちゃんと出来ていないから、あればいくらでも食べちゃうんだよ! 私たちがセーブしてあげないと!」

私が少し強めの口調で言うと、翔はムッとしたように眉間に皺を寄せた。

「だったら、最初からそう言ってくれないと分からないだろ!」

ダン! とテーブルに拳を叩きつけて、翔は声を荒げた。
テーブルの上のグラスがガシャっと大きな音を立てて、中に入っていたお茶がタプンっと波打つ。


私の心臓がバクバクと大きな音を立てて、息が苦しくなった。
嫌な思い出が蘇ってくる。
全身が恐怖に絡め取られて、何も言えなくなる。

そんな私の様子を見て、翔自身がハッとしたような顔をした。

「……ごめん」

小さく呟いて、気まずそうに視線を逸らす。