その日、運悪く心菜は不機嫌だった。
ひょっとしたら風邪気味で、体調が悪かったのかもしれない。
案の定大泣きされた翔は、この日、心菜の前で初めて声を荒げた。
「一体どうしたっていうんだ!」
心菜を抱きかかえながら、翔は叫んだ。
怒りと悲しみが絡み合った悲痛な声。
「いい加減にするんだ! これ以上泣いたって、何もできないよ!」
隣の部屋まではっきりと聞こえた大きな声に、私は慌てて二人の元へ駆け寄った。
「翔、交代するよ。心菜おいで」
私が抱っこを変わった途端、あろうことか心菜がぴたりと泣き止んで、それを見た翔はムッと顔をしかめた。
「……結局、母親じゃないと泣き止まないんだね」
棘のある言葉で吐き捨てると、乱暴にソファに座り、脚と腕を組んで他を寄せ付けないポーズのまま瞳を閉じる。
明らかに翔は苛立っていた。
仕方がない。誰だって子どもには苛々させられるものだ。
街で子どもに大声を上げているお父さん、お母さんの姿をよく見かけるだろう。
怒るなんて、日常茶飯事だ。
問題は、これを翔がどう捉えるかだ。
こんなものだと割り切って考えられるか。
あるいは、思い悩み続けてしまうか。
翔がどちらであるか、なんとなく予想が付いていた。
だからこそ心配だったのだ。
彼の、その生真面目過ぎる性格は、自身の首を絞める。
恭弥のときはどうだったっけ? と記憶を辿ってみるが、泣き止まない心菜に困りさえすれど、苛立つ様子はなかった気がする。
彼の大雑把な性格が幸いしたのか。
結果的に恭弥はできたパパだったのかもしれない。
今さら実感してしまって、どうしようもなく切ない気持ちが蘇ってきて、私はそれを追い払うべくブンブンと首を横に振った。
翔と恭弥を比べたって仕方がない。そんなことをしたって、どうしようもないのだから。
ひょっとしたら風邪気味で、体調が悪かったのかもしれない。
案の定大泣きされた翔は、この日、心菜の前で初めて声を荒げた。
「一体どうしたっていうんだ!」
心菜を抱きかかえながら、翔は叫んだ。
怒りと悲しみが絡み合った悲痛な声。
「いい加減にするんだ! これ以上泣いたって、何もできないよ!」
隣の部屋まではっきりと聞こえた大きな声に、私は慌てて二人の元へ駆け寄った。
「翔、交代するよ。心菜おいで」
私が抱っこを変わった途端、あろうことか心菜がぴたりと泣き止んで、それを見た翔はムッと顔をしかめた。
「……結局、母親じゃないと泣き止まないんだね」
棘のある言葉で吐き捨てると、乱暴にソファに座り、脚と腕を組んで他を寄せ付けないポーズのまま瞳を閉じる。
明らかに翔は苛立っていた。
仕方がない。誰だって子どもには苛々させられるものだ。
街で子どもに大声を上げているお父さん、お母さんの姿をよく見かけるだろう。
怒るなんて、日常茶飯事だ。
問題は、これを翔がどう捉えるかだ。
こんなものだと割り切って考えられるか。
あるいは、思い悩み続けてしまうか。
翔がどちらであるか、なんとなく予想が付いていた。
だからこそ心配だったのだ。
彼の、その生真面目過ぎる性格は、自身の首を絞める。
恭弥のときはどうだったっけ? と記憶を辿ってみるが、泣き止まない心菜に困りさえすれど、苛立つ様子はなかった気がする。
彼の大雑把な性格が幸いしたのか。
結果的に恭弥はできたパパだったのかもしれない。
今さら実感してしまって、どうしようもなく切ない気持ちが蘇ってきて、私はそれを追い払うべくブンブンと首を横に振った。
翔と恭弥を比べたって仕方がない。そんなことをしたって、どうしようもないのだから。


