「今さら、何言ってるの!?」

震える声で反論して、拳に力を込める。
そんな私の様子をじっと見つめている、真っ直ぐな瞳の翔。
あっさりと私たちを裏切ったくせに、こういうときだけ真摯な振りをするから、本当にずるいと思う。

「君を失くしてから、君がどんなに大切だったか気づくことができたんだ。
もう二度と君を幻滅させたりしない。だからどうか、もう一度僕にチャンスをくれないだろうか」

「新しい彼女と結婚するんじゃなかったの?」

「彼女とはもう別れたよ」

「ふぅん」

つまりこういうことか。
本命に振られて一人ぼっちになったから、私たちの元へ帰ってきたと。
都合が良すぎて呆れるしかなかった。

「悪いけど、これから先どれだけ償ってもらっても、二度とあなたを信頼することはできないと思う。
もう二度と私たちの前に現れないで」

はっきりと告げたにも関わらず、彼は捨てられた子犬のような目で私に追いすがる。

「君は一人で平気でも、子どもは可哀想なんじゃないかな? お父さんが必要だろう」

本当にずるい人だ。心菜のことをだしに使うなんて。
一体誰のせいでこうなったと思ってる?

「心菜のことは大丈夫です。あなたなんかいなくても、立派に育ちます」

「そんな訳ないだろう! 君だって若くに母親を亡くしたのだから、親のいない寂しさを知っているはずだ」

「寂しくさせるつもりなんて、ありません!」

心菜のことを指摘されて気が動転してしまったみたいだ、気がついたら私まで叫んでいた。
一つ大きく息を吸い、頭をクールダウンさせる。

「……もう、心菜の父親になってくれる人がいるので、あなたは必要ありません」

震える手をぎゅっと胸元で握り締めながら、私は彼を拒絶した。