恋は天使の寝息のあとに

いつも強気なはずの恭弥の、寂しそうな声。調子が狂わされる。

「あの……恭弥――」

私がカーペットにしゃがみ込んだままソファの上の恭弥に手を伸ばすと、肩越しに振り向いて、彼は言った。

「明日、俺が心菜を連れて病院行こうか?」

突然の、思ってもみない提案。

「だって、恭弥だって仕事でしょ?」

「一日くらい休んでも平気だし」

「何言ってんの!? ダメだよ!」

私はソファに身を乗り出して、叫ぶ。

そう言うと思ったから内緒にしていたんだってば。
こっちは恭弥に迷惑をかけまいと必死に考えを巡らせているのに。
どうして私の気遣いを全て無駄にするようなこと、言うかな!?

恭弥は私に頼れという。
その言葉が嬉しくて、私は余計に頼れなくなる。

おかしいな。昔だったら、何も考えず、彼のしてくれること全部、素直に受け取っていられたのに。
いつからか、彼に嫌われたくないって気持ちがどんどん膨らんで、バランスが崩れてきてしまった。
恭弥の負担になりたくない。迷惑をかけたくない。
ずっとそばにいて欲しいからこそ……

私は恭弥の服の袖を掴んだ。ひょっとしたら、すがるような瞳をしていたかもしれない。

「なるべく恭弥に迷惑かけないようにするから」

だからお願い。私たちのそばにいて。