恋は天使の寝息のあとに

「怒んないでよ」

「怒ってるのはそっちだろ」

「私は心配してるんだよ」

「お前に心配されるようなことは何一つねぇよ!」

恭弥が声を大きくして、驚いた心菜がふぇ……と情けない声を出した。
目と口の周りをくしゃっと歪ませて、今にも泣きそうな顔をする。


「……悪かった」

慌てて心菜をあやす私の後ろで恭弥が呟いた。
ドサッと身体をソファに沈みこませる音がする。

そのまま彼は黙り込んでしまった。
ひょっとして怒っているのだろうか。
沈黙ほど怖いものはない。
不用意に彼のプライベートに踏み込んだことを、後悔した。

だってなんでも聞けっていったじゃん。

不安と後悔と苛立ちできっと今情けない顔をしているであろう私を、心菜がきょとんとした表情で見つめている。


「……明日、病院いけよ」

冷静な声に戻った恭弥が一言、そう言った。

そうだった。
今週散々仕事を休んだというのに、また休まなければならないということに気がついて、心が沈む。
また周りに迷惑をかける。嫌な顔をされる。

「……やっぱり、行かなきゃまずいかなぁ……」

憂鬱なトーンで呟いて、思わず深いため息をついてしまった。
病院に行くだけなら、遅刻くらいで済むだろうか。
どちらにせよ、周りに対しての心象が悪くなることには変わりないのだが。