二人の青年は私を挟むように前後に立つ。これでは私が何か悪いことをしたようではないか。彼らの腰の刀は歩みを進めるたびにカチャカチャと金属音を立てていて、使い込まれた柄部分と相まってまるで本物の刀なのではないかと思わせてくる。
 沈黙に我慢できず声を出すと後ろを歩いていた幼さの残る青年が返事をしてくれた。
「ここが何処なのかだけでも教えてもらえませんか?俺はただの一般人で、エキストラとかもやったことないんで…」
私の言葉を聞き前方を歩いていた青年が振り返りつつ理解できないと言いたげに首をかしげ、ここは京の町で自分たちの拠点だと説明してくれる。今から向かう場所には彼らの上司がいるのだそうだ。そこで詳しい話を聞くのだと言われた私は説明してほしいのは私のほうだとつい、「話すことなんて何もない」と強い口調で訴えてしまった。その瞬間、今まで優しい笑顔でほほ笑んでいた青年の顔からまるで太陽の光が陰ったように表情がストンと抜け落ち、腰の刀の柄にそっと手を添えた。

「キミさ、僕たちは無駄な質問に答えている暇はないし、捕らえられたキミに拒否権はないんだ。あんまり煩いと、斬っちゃうよ?」

彼の言葉はいたずらをする子供のような無邪気さを孕んでいる。しかし、その背後に本物の殺意を感じ私はゴクリと生唾を飲み込む。(斬る?腰に下げている刀は本物?ここはそもそも令和の日本じゃないのか?)その場に立ちすくむ私に後ろについて歩いていた青年が進むよう促す。彼らとの会話から”私がいるのは現代ではないかもしれない。”という疑念とも恐怖とも言えない意識が頭をよぎった。

着物の男たち、おそらく本物と思われる刀、京の町…殺気……私は一体、どこに来たっていうの?時代が違う?異次元?異世界?なんなんだよもう……

必死に答えを探そうと思考はフル回転だが、目の前の異常な光景に頭が追いつかない。そんな中、二人の青年に連れられて、私は未知の世界へと引きずり込まれるように前へ進む。その間に、広い敷地の奥へ進み、門をくぐり、庭を横切り、土のにおいと古びた木造の建物を目の当たりにし、ますます現実味を失っていく。

「さあ、着いたよ」

先頭の青年の声に意識が引き戻された時、青年はスパーンと小気味良い音を立てながら豪快に目の前の襖を開いた。

「へ?」

私の記憶が正しければ、彼らは私を自分たちの上司のもとへ連れていくと言っていたはずだ。この襖の開け方は正解なのだろうか?すごく失礼に感じるが、これがここの礼儀なのか?それともパニックになって私の記憶が改ざんされているのか?一体何なんだ。

あまりの衝撃にぐるぐると思考を巡らせていると部屋の主と思われる男の怒鳴り声が聞こえてくる。それと同時に”あぁ、やっぱりだめだよね”となぜか安心してしまった。