私は、特に運が良いという人間でもなければ、悪いというわけでもない。そう、いつもと同じ日常を今日も送るはずだった。ただし、今日は特別な日となる。
 私の朝食は簡単にトーストとブラックのコーヒーで終わり。高校一年生となったばかりの身としては特に変わったところも無い。そう、今日から高校生活の始まりとなる朝を迎えていた。
 私、藤原友里(ふじわら・ゆうり)は、本日から高校一年生。もう死語と化してきてしまっているがキャピキャピの女子高校生である。同じ中学に通っていた友達のほとんどはそれぞれ別の高校に通うことになってしまって高校生活に不安も抱えているが、同時に新たな出会いを楽しみにもしている身だ。
 「行ってきまーっす!」
 朝食の後片付けをしているお母さんとまだ出勤までには早いのかリビングのソファーにおいて座りながら朝のテレビ番組を目にしているお父さんに向かって元気良く声をかけていくと本日から通うことになった学校に向けて歩き出して行った。
 自宅から徒歩で通うことが出来るのは幸いだったのかもしれない。遠い高校に通う同期生の中には電車で乗っても片道一時間以上もかかるような高校をわざわざ選ぶ子たちもいた。私はそんな面倒くさいことはちょっと嫌いで、将来のこともまだ決めなくても良いかなと思い、頭が極力良いとも悪いともつかない学校で制服有り(私の選んだ高校は男女ともにブレザータイプの制服だ)そして、自宅から近く徒歩で通える範囲の高校を選んだ。だって、そのほうが楽だから。
 将来のことを考えれば少しでも進学率の高い高校を中学時代の入試に向けて必死に勉強していたのかもしれないが、私は今をとにかく楽しく生きて過ごすことが出来れば良いタイプの人間だから無理なことはしない。周りからすれば楽をしている、と思われるかもしれないし必死に受験勉強をしている学生たちからすれば羨ましがられるのかもしれないが周りのことなんか特に気にしたこともなかった。
 そう、今を…この瞬間を楽しむことが出来れば良かった。
 「学校に着いたらまずはクラスを確認して…それから黒板に書かれている席を確認して…」
 隣になる子はどんな子だろうか。可愛い子ならすぐにでも友達になってみたいし、男の子だったら気さくに接していける付き合いを築いてみたい。そんな夢を描いていたことがマズかったらしい。
 特にそこには信号機や横断歩道の類なんて存在しなかった。スクールゾーンがあるわけでもない場所だったからもう少し地域社会としては交通整備を行ったほうが良かったのかもしれない。
 まさか、住宅街のド真ん中においてトラックの急ブレーキ音が響き渡るなんてどこの誰が予想していたことだろう。そして、私がそのトラックの犠牲者になるなんて誰が予想出来ただろう。
 別に道のド真ん中を歩いていたわけじゃない。一応車通りのある道だから端を歩いていたはずなのに、どうして私は道端に倒れているのだろうか。冷たいコンクリート製の道は温もりといったものがなく、逆に私の体温を奪っていくようだった。出血でもしたのか歪んでいく意識とともに身体の中から血が流れ出て人間の生命力の弱さを感じた。かろうじて視界に見えるのは電柱に衝突して停まっている大型トラックが映って見えていた。動かしたいのに動かない身体、痛いはずなのに痛覚を一瞬にして奪われてしまったのか手足の感覚が無くまるで眠りについていくように目蓋を閉じると交通事故現場から意識を閉ざしていった。