それは、年明け早々の事


「与一はん、この文を許婚はんに届けて下さいまし」


許婚同士といっても、これまで文を交わしたことはなかった

君菊からの文を持ち、主君である


徳川慶喜のもとへ


与一の前で、慶喜が文を読む


「君菊というのは、美しい容姿に
美しい舞を舞うそうだな?」

「はい」

「春の花見で、舞踊を披露してくれと
伝えてくれ」

「はい」



文を読む慶喜の様子と言われたことを

君菊に伝えた


「おおきに
舞を披露させて、もらいましょ」


「あの… 君菊、少し話を」

「何も話すことなんてない」


与一に背を向けた



「失礼しました」







*      *       *






「与一!!菊に会わせてくれ!!」

外の掃除をしている与一に声を掛けて来たのは、山崎だった

場所を変え
自分のせいで、君菊が心を閉ざした

その事を告白した


「すみませんでした…」

「菊は、ちと、考え方がおかしな方にいくさかい、明日の昼にいつものとこにって
伝えてくれへん?」

「わかりました」












いつもの空き家


縁側で日なたぼっこする君菊



「菊!!もお、きててんな!!」


山崎と一緒に土方もいた


勘の良い君菊は、与一が事情を話したと
察した


「なんや…
関係ない人まで連れてこんといてよ」

「おまっ!!副長は、心配してやなぁ!!」

「頼んでへん
心配してもらいたないねん
お兄ちゃんにもな
もう、子供やあれへんのや
ほな… さよなら」

「待て!君菊!!」

土方が君菊の肩に手を触れようとしたが

パシッ

「触らんといて…」

ギロリと睨まれた



二人を残して、空き家を出た



(敵やって思えば、楽になるはずやのに
なんで?なんで、こないに苦しいねん…)