「海斗おかえり。」




「おう。」




家に帰れば母親がいて、優しい笑みを俺に向けていた。




あの頃より母親は雰囲気もやわらくなって、少しずつだけど元の明るい性格に戻っていった。




父親に裏切られてからというもの、母にとってそれは苦痛であり、終いには自殺をしようとしていた時もあった。



あの頃は…


大変だったな…。




「ねぇ海斗。そう言えばさっき電話があったのよ。」




「電話?」




「うん。確か…林田って子から。なんだか急ぎみたいでね。帰ったら折り返し電話下さいって。」




「は?めんどくせーな。なんだよ…」




そう言いながら、俺はしぶしぶ受話器を取ろうとした時だった。




~♪




俺の携帯が鳴ったのだ。




誰だ?



電話番号を見ても知らない番号。




まさか…




「もしもし。」



『ちょっとあんたどこほっつき歩いてんのよ!』



案の定うるせー女からだった。




「るせーな。なんだよ?」




『ちょっと今すぐ病院来て!要が危険なのよ!』




「……は……?」




俺の思考は一気に停止していた。




要が……危険……?



病院……?



早く来て……?




その単語で結び付いたのは縁起が悪いが……





“死”




気付いた時には駆け出していた。





林田が病院名やら何やら言っていたが正直耳には入っていなかった。





篠原…



篠原…




ただ彼女の名前を何度も呼びながら、俺は彼女がいるであろう病院へと足を進めていた。