それからと言うもの、村瀬が私に話しかけてくることもなければ、視線が重なる事もない。
そんな現実に、私の心は痛むばかりだった。
12月に入って、私は綾香のお墓に足を運んでいた。
「綾香…。来たよ。」
言いながら私は彼女のお墓にみかんを置く。
「綾香、みかん嫌いでしょ?だから持ってきちゃった。」
うっすらと笑ってみても、誰もいないお墓には私だけしかいなく、心の中はむなしい気持ちでいっぱいになる。
「ずっと…嫌いだったんだ…。」
綾香が眠っているであろうお墓に私は語りかける。
「あの鋭いけど優しい瞳も…いつも気がつけばそばにいてくれるところも…。泣いてるとき真っ先に抱き締めてくれる腕も……」
全部……
全部……
「好きなんだっ……」
きっとあの悪夢の日。
泣き続ける私をずっとあやし、ずっと抱きしめてくれたあの日から、私は村瀬を好きでいたんだ。
けれどその想いは叶うことはない。
彼は罪悪感に押しつぶされ、申し訳ないという気持ちから、ずっと私を見ていてくれたのだから。
「伝え…られないね…。」
きっと私が伝えたら、村瀬は罪悪感のあまり頷くかもしれない。
これから先もずっと…
私のそばにいたら彼は、私のせいでこの世を去った綾香の事を思い出してしまうかもしれない。
そんな悲しいこと…
私はもうしてはいけないのだ。
“海斗を救って…
そして幸せにしてあげて?”
夢で言った綾香の言葉がこだまするように聞こえる。
綾香…。
人間は理不尽だね。
村瀬の幸せを願いたいのに…
私苦しくて辛いよ…。
勝手だけど…
「そばにいてほしいよ…。」
そんな叫び聞こえるはずもないのに、寒いこの季節、私はあたたかなぬくもりに包まれているような感覚に襲われる。
“大丈夫だよ。要。”
そう、綾香の声が聞こえる気がした。
「あや…かっ…。」
彼女の名を何度もつぶやきながら、溢れる涙をこらえる事なく私はずっと泣き続けていた。
「綾香……。」

