気付いた時には6時を回っており、私は急いでトイレから出た。
「よお。」
え……?
真っ暗な闇の中から聞こえるドスの利いた声。
そんな声を発するのはヤツしかいない。
「むら…せ…?」
そう尋ねれば、後ろから足音が近づいて来るのが分かる。
なんで…いるのよっ……!
そう心の中で叫んだのと同時に、私はその場から駆け出した。
もう付いて来ないでよ……!
みじめになるのは私なんだから……!
必死に走って鞄を取り、私はそのまま校門まで駆け出した。
もうなんなの…!
なんなの…!
なんなの!
……………………。
「ほら。受け取れ。」
投げられたのはココア。
それでも反射的にキャッチした私だけど、目の前の男から視線をそらせないでいた…。
「なん…でっ…」
溢れ出しそうな涙を必死にこらえる。
「なん」
「もう最後にすっから。」
「え…?」
さい…ご…?
「はっ…。こないだは笑ってくれたのに、今日は笑わねんだな…。泣きそうな顔してんじゃねーよ。」
酷く切ない村瀬の声が、私の心に鋭く突き刺さる。
「悪かったな。付きまとって。それ今までの礼だ。」
「むら…」
「じゃ、気い付けて帰れよ。」
こちらに背を向けると、村瀬はすたすたと行ってしまった。
「は…。もう…終わりなん…だ…。」
その場に崩れるように座り込み、私はそのまま涙を流した。
ぼやける視界の中でココアを見れば、そこにはホットと書いてあって。
「いつ…買ったのよ…。」
そのココアはすでに冷え切っていて、彼がずっと待っていてくれたのだと悟った。
「バカ…。」
そんな私の言葉は誰の耳に入るわけでもなく、キラキラ輝く星空に静かに消えていった。

