「おかえりー。」




教室へ行くと千恵美が携帯をいじりながら椅子に座っていた。




「遅かったわねー。なに?ついに恋が実っちゃった?」



千恵美の言葉に無視をしながら、私は黙って荷物をまとめる。




「あら?もう付き合ってたとか?」



「違います。」



「でもちょっとは、まんざらでもないんじゃない?村瀬のこと。」



「は?」



ピタッと動きを止め彼女を見れば、ニヤニヤした顔で私を見つめている。




「きもい。」



「もう!なによー。でもまぁ、ちょっと顔が明るくなってね。」



「え…?」



「終わったんでしょ?色々と。」



ニコッと笑う千恵美に、私はわけが分からずまゆをひそめる。



「聞いてんのよ。村瀬から。」



「は…?」



「詳しくは知らないけど、あんたを支えてやってくれって。」



「な…」



「ま、私の出番はなかったみたいね。」




そう言い鞄を肩にさげ歩き出す千恵美。




「あ!」




パッとこちらに向き直り、千恵美は私を見つめて笑った。




「なんかあったら、なんでも言いなさいよ?私とあんたはもう、親友なんだからさ。」




グッと親指だけを上げて私に差し出してくる千恵美。



そんな千恵美に私も同じように返す。



「わかってるわよ。ありがとう。」



こぼれそうな涙を必死にこらえながら、私は千恵美に笑った。



「あんたの笑った顔、はじめて見たよ。」



それだけ言うと、千恵美は教室から出て行った。



あんたの出番がなかったなんて…



バカ言わないでよ…。



私がここまでこれたのは、あんたのおかげでもあるんだからね。



バカ千恵美。





千恵美が出て行ったドアを見つめながら、私はそんな事を心の中でつぶやいていた。