「なに…泣いてんだよ。」




ハッと我にかえれば、目の前に村瀬がいて、村瀬のあたたかな手が私の頬を優しく撫でている。




「な……んでもないわよ!」




バッと後ろを向いて、急いで涙を拭う。


振り返れば、村瀬は窓の外をぼんやりと見つめていた。




「もう1年か…。」



「…っ…。」



村瀬の言葉に深く息をのめば、私の脳裏に浮かんだのは綾香の笑顔だった。



その笑顔にまた涙が出そうになり、私は必死に唇を噛み締める。




「墓参り…行かなきゃな…。」




そうつぶやいた村瀬の声は、今までに聞いたことがないくらい弱々しかった。




「むら…せ…?」



もしかして……



綾香の事………










「俺あいつと異母兄弟なんだ。」









「え……?」





いぼ……きょう…だい…?




「一緒には暮らしてないし、どちらかと言うとあいつの方が裕福な暮らししてた。」




空を見上げて言う村瀬はどこか悲しい瞳をしていた。



「けど、居心地悪いみたいでさ。それに、俺に申し訳ない気持ちがあったみたいだ。」



「申し訳ない…?」



「ああ。父親は俺のとこじゃなく、あっちの母親選んだからな。」



「…っ…。」



「あいつは苦しんでた。俺に対しての申し訳ない気持ち。罪悪感。ずっと…。そんなときに、あいつはずっと好きだった南に告られて…。」




南…。


その単語だけで私の体はビクッと震える。




「あいつに汚され、捨てられた。泣きながら俺んちまで来て、あいつは崩壊したんだ。けど…けどあいつは立ち直れた。」



「綾香……」



「親友っていう、お前の存在があったから。」




わた…し…?



「全てを話そうと、お前なら受け止めてくれるって…そう思った時に…」



村瀬は唇を噛み締め言葉を続けようとするが、私はそれを遮るようにして言う。



「私が…言ったんだ…。」




南くんが好きなんだ、と…。




「それで言えなくなって、ついにあの日が来た…。」




「…っ…。」




修学旅行の…日…。




「綾香はその後すぐに俺んとこに来た。“要を助けてほしい”と…。」



こちらを見つめる村瀬の瞳は、とても悲しい瞳をしていた。



「…っ…。…あの…時…私が聞いていれば…」



全て…



全てなかったんだ…。




綾香も死ななくて、私もなにもなくて…










村瀬と綾香も…




幸せになれたんだ……。








「それなのに…」




私は…




私は……!





「ごめんな…さい…」




崩れるようにその場に座り込めば、同時に涙が溢れ出てきた。




苦しんでいたのは自分だけではなく、



綾香も、村瀬も…



ずっと苦しんでいたんだ…。




それなのに私は全てを…



全てを奪って……





「ごめん…なさい…。ごめんなさい…。」




「謝んなら…




死ぬんじゃねぇ。」





その言葉と共に、村瀬のあたたかなぬくもりに包まれる。





あの日、南将太に汚された夜も、彼はこうして私を抱き締めていてくれた。



泣き止むまでずっと…



ずっとそばに居てくれ、私を支えてくれた。





ああ…




あたたかいな…。








そんな事を思いながら、私はそっと瞳を閉じた。