今日から夏休みが始まった。
俺の名前は鈴木星也中学3年生。
今は祖母の家に行くために、父の借りたレンタカーで林の中を走っている。
木と木の隙間から見える海はアスファルトのように光っていて綺麗だった。
きっと祖母の家から自転車で漕いで行けば案外早く着くだろう。
「今年の夏休みはゆっくり休めや?」
父が真剣な眼差しで車を運転しながら言った。
「おう」
俺はいつものように素っ気なく答える。
父は性格が硬くて苦手だ。
やはり病院の院長と言うのはお難いものなのだろうか。
昔はそうでもなかったが、7年前院長になって以来こんな性格になってしまった。
父が忙しかったのもあり、幼少期は休日の日も遊ぶことがなかったのを覚えている。
そのため周りの友達が羨ましかったものだ。
今年は父と2人で祖母の家に泊まる。
俺の家は4人家族。
父、母、姉、俺の4人だ。
最後に一家団欒で祖母の家に行ったのも7年前。
祖母が「たまには顔を出しに来なさい」と言う為、この夏2人で泊まりに行くことを決めたのだった。
「父さん」
久々に呼んだ気がした。
「なんだ?」
「なんか前から思ってたけど昔より難くなったな」
「そうか?お前もよっぽど変わったけどな」
その言葉の意味はよく分からなかったが、説教が始まる予感がしたため聞かないでおくことにした。
そして車内にはまた沈黙が続いた。
やっぱり家族と言うものの久々の2人きりと言うと何を話せばいいかわからなくなる。
俺は説教されるのが苦手だ。
それと真逆に父は説教したがる性格だ。
性格が合わないのだ。
話が変わるが、俺は今北海道に行くことを心から楽しみにしていた。
ずっと会えていなかった従兄弟の大志に会えるからだ。
頻繁に連絡は取りあっているためあった時も気まずい雰囲気も流れないだろう。
幼いころからお互い野球が好きで、大志はプロ野球選手を目指すと言っていたが上手くなっただろうか。
大志とは本当の兄弟のように喧嘩するほど仲が良く、親友のように毎日夏休みは2人で山の中を探検したり毎日一緒にいたのを覚えている。
そして、夏休みの終わりが近づいてくると俺は地元に帰る。
家から離れていく俺たち家族が乗った車。
その車を走って追いかけ寂しいような満足したような顔で手を振る大志。
それが毎年続いていた。
最後に大志と会ったのは7年前。
俺たちが小学1年生だった頃だ。
最後になるなんて思いもしなかった。
あの夏にはたくさんの思い出がある。
俺は近所で出会った女の子に初恋をした。
名前は覚えていない。
大志もその子が好きで、よく喧嘩をした。
兄弟同士は好みが同じというのを聞いたことがあるが、今思えばそうだったのかもしれない。
最後に会った日、近くの公園でその子に四つ葉のクローバーを貰った。
そしてお返しにシロツメクサの王冠と手紙をその子に渡したのだった。
まだその時のことはうっすらと覚えている。
今思えば大志とした些細な喧嘩も懐かしい。
よく叔父さんに2人で怒られたっけな。
その度に大志は変顔をしながら
「喧嘩するほど仲いいんだぜー?」
と言って叔父さんの顔が緩んで声を出して笑う。
つられて俺も笑う。
そしていつものようにどうでもよくなって仲直りするのが定番だった。
7年も経っているから性格も変わったのだろうか。
あの頃のように元気な性格なら嬉しい。
昔のことを思い出してると父が車を止めた。
「着いたぞ」
そう言って車のドアを開け、玄関の方に歩いて行った。
俺もその後をついて行く。
なんだかとても懐かしい感じがした。
父はインターフォンを鳴らした。
ピンポーン。
玄関の向こうから足音がした。
ガラガラと玄関が空く。
「あら、いらっしゃい。星也久しぶりね!」
祖母が出迎えてくれた。
「おばあちゃん久しぶり!」
昔のように挨拶した。
7年前と全く変わっていなかった。
そして父と俺は家に入る。
「お邪魔します」
リビングに着いた。
もうそこには俺たちのお茶とお菓子が容易されていた。
きっと俺たちが来るのを楽しみに待っていたんだろう。
とても心が温かくなった。
俺は氷が入れてある冷えたお茶を一気に飲み干す。
頭がキーンとなった。
でも夏の暑さには丁度いい。
少し汗がひいた気がした。
「あ、そういや大志は?」
俺は思い出して祖母に聞いた。
「大志は今部活に行ってるのよ。多分もう少ししたら帰ってくるよ」
「じゃあ散歩行ってくるわ!大志来たらすぐ帰ってくるって言っといて」
俺は靴を履き、走ってある場所に向かった。
大志とよく一緒にキャッチボールしたお気に入りの河川敷。
——そこはまだ残っているのだろうか。
少しでも早くその場所を確かめたかった。
幼い頃の記憶を辿りながら全速力で走って行くと、あの頃と変わらない場所が存在していた。
「よかった…」
安心して体の力が抜けていった。
なぜ俺がその場所をそこまで大切にしているのかというと、とても大事な思い出があるからだ。
とても美化された思い出。
馬鹿馬鹿しい話だがそれからずっと俺はあの日を思い出している。
その子は今もこの地にいるのだろうか。
—―会いたい。
そう思った。