今でもテレビの甲子園特集では、父がよく出てくる。
『野球界から消えた、名バッター』と見出しがつけられる。
バッターとしては1流だった父は、
母のために自分の全てだった野球を捨てた。
もう、泣きそう・・・。
「この前、二人で飲んだんだ。黒咲と。」
監督が再び話し始めた。
「娘に男ができたみたいだって言ってたよ。
もしかして、源のことか?」
それ、今聞くところですか?
「まぁいいや。で、本題。
黒咲、甲子園の球審として採用されたみたいだ。
今年の夏、甲子園の球審デビューするって張り切ってた。」
そんなの、聞いてないよ。
涙がとまらなかった。
こんなこと言われたら、これからどうすれば。
せっかく、また甲子園へ行けるところだったのに。
「祭吏ちゃん、お父さんが支えてくれてありがとう、って。
もし、俺の身に何かあったらって頼まれてたんだ。
帰り遅いのに、夜ご飯作ってくれてありがとうって言ってた。
娘の支えがなかったら球審になれなかった。
だから、『球審になったのはおれからのサプライズ』っていってたのに。」
お父さん、お父さんがそんなこと思ってたの?
全然知らなかった。
何でこんな大事なこと話してくれなかったの?
サプライズ、叶わないかもしれない。
「祭吏・・・」
「源、祭吏ちゃんを頼んだよ。」
「はい。」
泣きじゃくる私に監督は声をかけてくれる。
「お父さんを信じるんだ。天才バッターの生命力を。」
最後に監督に挨拶をして電車にのった。
大学病院方面の電車に。