サクラ咲ケ

「こいつです。今日、監督と話したいって言ってた。」
「こんにちは、黒咲祭吏と言います。」
監督に軽く頭をさげた。
監督は優しげな笑顔で、自己紹介してくれた。
「黒咲祭吏さんか。話ってなんだ?」
「実は私、黒咲誠の娘なんです。」
監督は驚いたように言った。
「黒咲の娘か・・・」
「父が交通事故にあいました。今、意識不明の重体で。」
涙が溢れそうになった。
でも、監督は真剣なまなざしでこういった。
「なんで、黒咲がプロにいかなかったか知ってるか?」
それは、今まで教えてもらえなかった。
なんでだろう。
野球のことはお父さんに聞ける雰囲気じゃなかったから。
「祭吏ちゃんのお母さんと結婚するためだよ、」
「え?」
私と朔弥の声がそろった。
それは驚くはずだ。
結婚するためにプロを諦めるなんて・・・。
「祭吏ちゃんのお母さん、町谷の両親はとても厳しかったんだよ。
野球部のマネージャーをすることも、
両親を説得するのに時間がかかったみたいだよ。
甲子園優勝してすぐ、町谷の実家に行ったらしい。
町谷は『この人と結婚したい』って。
町谷のお父さんは激怒。
誰がこんな奴に娘をやるかって。
黒咲は町谷のお父さんに頼み込んだんだ。
そうしたら、条件があると言われたらしい。
その条件がプロには行かず進学し、就職すること。
その条件を果たしたから結婚できたんだ、あの二人は。」
もう、涙をこらえるので精一杯だ。
お父さんは一途でお母さんを思い続けた。
そのために野球人生を捨ててでも。