そばにあるもの



「そんな急いでさ…何かあった?」


泣きそうになってしまった。

廉くんの声が…優しかった。


『廉くんに…聞きたいことがあって…。』


大きく深呼吸をして…………


『私のこと…覚えてますか?』


廉くんの顔なんて見れなかった。

心臓のバクバクは止まらない。

もし違ってたら…いや…

もし廉くんがあの男の子だったら…


言ったあとに、たくさんのことが頭の中を駆けめぐった。


「なんで…そんなこと聞く?」


意外な返事だった。


「理由が知りたいな」


そう言った廉くんの横顔は今までにないくらい、透き通って見えた……


『私…好きな人がいるの。』


廉くんは何も言わない。


『私が引っ越す前の街で出会って…

その次の日にその人引っ越しちゃった。

東京にいるって聞いたんだけど…


顔も声もよく覚えてない。

名前だって知らないけど…………

でも、笑顔と優しさは覚えてるの。


その笑顔が優しさが…廉くんと一緒なの。』


言い終えた私は、返事も聞かずに

その場から走り去った。