勉強は嫌いじゃない。
頭が良くて羨ましいという言葉を聞くと腹がたつ。
「天才」という褒め言葉は、一番の侮辱だと、誰かが言った
努力なしに、生まれ持った「才能」で上に立っている。
そんなことは絶対にない。
俺は医者になりたくて
苦しかった勉強も順位が上がると楽しくなって
1位という文字を何度見つめて喜んだか。
でも、俺は誰のために医者になるのか。
そんなこと考えたこともなかった。
当たり前のように、医者という人生の一本道が用意されていて、
分岐点なんか無かった。
広い草原で、辺りを見回して、
綺麗な星を見つけたら
それに触りたくて、
そこに行きたくて、
飛んでみようとする。
俺にはそんな自由がなかった。
崖の上の先端に立たされ、
下も前も見えない。ただ、地平線に向かって一本、綱が、細く伸びている。
俺はその上を
踏み間違えないように、
落ちないように、そっとそっと
綱渡りを続ける。
死ぬまで、ずっと。



