「早くアレを俺のモノにしたい!」


ある日、待ちきれなくなった男はその女の手首を掴み金を握らせました。

キョトンとする女に男はこう言います。


「この金で俺のモノになってくれ」


男が色々なモノを落とした時と同じ言葉を言いました。

大抵のモノはこれで落ちる。そう確信していたのです。


「貴方の愛はこれですか?」


女は残念そうに涙をこぼすと、そのお金を道の脇に捨てました。

ぱらぱらと木枯らしが道の端に落ちたお札を飛ばします。


「好きでした」


彼女は涙を零し、踵をかえしどこかに行ってしまいました。

男は唖然としました。
男の手には、先程握られていた札も、それと引き換えに得るはずだった女の手も何もかも残っておらず、ただただ、指の隙間からみえる落ち葉がさぁさぁと音をたてるばかり。

金で手に入らないモノがあると知った時には、もう何もかも遅かったのでした。