「つれないなぁオネーチャン。じゃあ、またどっかでね」

そう言うと、ナンパ男は踵を返して立ち去った。


「気持ち悪い…」

思わず口から出てしまった。
触られた肩をササッとはらって前を進もうとした時だった。


見覚えのあるシルエットが目の前に浮かぶ。



「あーゆーキモい奴にナンパされた時は強く言ってやんなきゃひるんでくれないよー?柚希ちゃん」



もう一人のナンパ男がいた。

「蓮……」

蓮が目の前にいた。
相変わらず、細い体に、黒のスキニーがよく映える。

「久しぶり〜。いや〜なんかうるさい男の声が聞こえるなぁと思って見たら、柚希ちゃんナンパされてるし!」

バカにしたように蓮が笑った。

「見てたんなら助けてよ」

「ははっ!ごめんって〜」

蓮は腹を抱えてしばらく笑っていた。
そしてパッと私と目が合う。

蓮の表情が一転して、なんだか深刻そうな寂しそうな顔をしている。


「てかさ…」


蓮はそう言ったと同時に、私の腕を強く引っ張った。

自分の元へと引き寄せて、私は今、蓮の胸の中にいる。

状況がよく分からない。

とりあえず私は月が丘の大通りのど真ん中で蓮に抱きしめられている。